大阪府で2003年から2012年までに発生した原因菌不明集団下痢症10事例において分離された149株の大腸菌のシーケンスを行った。この10事例では、大腸菌以外には下痢の原因となる微生物は検出されていないが、分離された大腸菌はPCRによる主要病原因子同定検査が陰性のため、原因不明事例となっている。シーケンスデータのアセンブル後にAverage Nucleotide Identity解析を行った結果、すべて大腸菌と判定された。checkM解析でコンタミネーションが10%以上検出された3株を除外し、残りの株についてin silico血清型別、系統解析、既知病原遺伝子の検索を行った。抗血清を用いた血清型別では、106株でO血清型が判別不能であったが、in silico血清型別では、8株以外は血清型(O-genotype)を決定することができた。10事例のうち、複数の患者(5名以上とする)から同一血清型の株が分離されているのは、事例1のO26:H32(23名)、事例6のO81:H27(20名)、事例7のO128:H12 (14名)、事例9のO146:H28(6名)の4事例であり、これらの事例を中心に解析を行った。O26:H32、O81:H27、O128:H12は、phylogroup Aに、O146:H28はphylogroup Gに分類されたが、全ゲノム系統解析ではいずれの株も系統は離れていた。既知病原因子の相同性検索では、eaeH (Putative attaching and effacing protein homolog)が検出されたのみであった。これらの菌株では、新規の病原因子を保持している可能性が考えられるため、今後は、公共DBからヒト常在性大腸菌のゲノム配列を取得し、Pan-GWAS解析などにより集団感染由来株に特異的な遺伝子の抽出などの行う必要がある。
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