ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)における越冬卵の形成は、親個体が短日・低温環境下で生育することで誘導される。光周期に対する応答(光周性)には、概日リズムを司る時計遺伝子群が関与している。多くの昆虫種で、cryptochrome (cry)、timeless (tim)、period (per)の遺伝子三種が基盤となり、明暗周期に則した遺伝子発現の振動が生み出されている。これら時計遺伝子の振動が、ヒトスジシマカにおける日長の感知及び越冬卵形成に関与していると考え、CRISPR/Cas9システムによって、ヒトスジシマカ温帯系統の各種時計遺伝子欠損(KO)系統を作出した。per KO系統を通常条件と越冬条件とで飼育した後、産卵した卵の孵化率を調べたところ、通常条件・越冬条件共に孵化率の著しい低下が見られた。別の解析から、それらの卵は依然として孵化する能力を保持していることが明らかになった。即ち、per KO系統が作り出す卵は、発生異常で孵化しないのではなく、孵化行動が誘発されない状態にあると考えられた。perは越冬卵の形成そのものよりも、孵化行動の誘起に関連していることが示唆された。
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