研究実績の概要 |
発がんに大きく関わる染色体転座は、DNA二本鎖切断(DSB:DNA double strand break)の修復エラーにより生じる。しかしながら、発がんに繋がる遺伝子領域間での染色体転座がどのような過程で生じるかは未だ多くが明らかになっていない。我々は、DSB修復の際のR-loop解消異常が染色体転座に関わることを示唆するデータを得ている(Yasuhara et al. &Shibata*, Cell, 2018)。しかしながら、転写共役型DSB修復と遺伝子領域間転座を繋ぐ分子メカニズムの解明までには至っていない。そこで本研究課題では、任意の場所とタイミングでDSBを人為的に誘導するヒト培養細胞実験系を確立し、転写活性を有する遺伝子間における染色体転座アッセイ系を構築することで、染色体転座を引き起こす分子機構解明を目指した。また本研究のもう一つの挑戦として、ヒト体細胞の大半を占めるにも関わらず、これまで解析が困難であったヒト静止期GO/G1期細胞を研究対象とする。今年度はタモキシフェン誘導体40HTにて制限酵素AsiSIが核内に誘導されるシステムを、網膜色素上皮細胞(RPE細胞:Retinal Pigment Epithelium)において構築し、またDSB発生を停止させるためのAIDタグ法を組み合わせた実験系を確立した。RPE細胞は接触阻害法によりGO/G1期に同調することが出来、GO/G1期に40HTを処理することでDSBを誘導することに成功した。これらのアッセイ系を用いて染色体転座アッセイ系の構築を中心に行い、染色体転座が起こりやすいDSB部位の組み合わせの同定を試みた。さらにCRISPRによりゲノムの2か所を切断し、染色体転座アッセイ系の構築を試みた。
|