元来ヒトの生体内に構築されている免疫システムは、がん細胞を攻撃し駆逐する能力を有する。しかし、自己の免疫システムが何らかの原因により活性化できない状態、すなわち「がんに対する免疫寛容状態」に陥ってしまうことが大きな問題である。がんに対する免疫寛容を誘導するメカニズムとして、がん微小環境内における「エフェクターT細胞の疲弊誘導」「制御性T細胞による免疫抑制」等が挙げられる。一方で、がんに対する免疫応答を考える際には、腫瘍局所だけではなく、全身における免疫応答を考慮する必要がある。しかし、がんに対する免疫寛容において、中枢性免疫寛容の影響を解析した研究報告はほとんどない。そこで本研究は、中枢性免疫寛容成立の場である「胸腺」に着目し、「がんに対する中枢性免疫寛容」が抗腫瘍免疫応答に及ぼす影響を解析することを目的として研究を進めている。 令和3年度は、令和2年度にセットアップした、がん抗原に対する後天的中枢性免疫寛容成立の可能性と、その成立が抗腫瘍免疫応答に及ぼす影響について解析を行うための解析システムを用いて研究を遂行した。その結果、複数の実験系にて、がん抗原が胸腺内にて特定の樹状細胞によって提示されていることを示唆するデータを得た。またこの特別な樹状細胞の機能解析も進行中である。さらには、がん特異的な胸腺細胞の分化、運命決定にどのような影響があるかの解析が進行中である。これらの成果に関する論文は現在執筆中である。
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