研究課題/領域番号 |
20K21539
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
村上 善則 東京大学, 医科学研究所, 教授 (30182108)
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研究分担者 |
伊東 剛 東京大学, 医科学研究所, 助教 (20733075)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 免疫グロブリンスーパーファミリータンパク質 / 免疫チェックポイント / がん浸潤・転移 / 分子間結合 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
「細胞接着分子群の結合の網羅的解析による新規がん病態解析法の構築と鍵分子の機能解析」の研究課題の下に、以下の3項目について研究を実施し、各々、記載の通りの成果を得た。 1)IgSF 389分子、インテグリン24分子の分子間結合検索系の構築:特定のIgSF分子と結合する、IgSF分子群、並びにインテグリン分子群を網羅的に解析する目的で、まず、IgSF分子群約300分子の細胞外断片をクローン化して細胞に発現し、標識結合分子として ALPHA法、固相化タンパク質としてSPRi 法に供する系を構築し、これら物理化学的手法により、IgSF、インテグリン分子間の結合を同定する実験系を構築した。 2) がん転移、腫瘍免疫、ウイルス感染に関わる細胞間接着鍵分子の同定:多彩な機能を示す細胞接着分子CADM1、また免疫チェックポイントに関わるリガンド分子群の結合分子を上記実験系により検索し、各々1-6分子の特異的結合IgSF との直接結合を同定した。 3) 同定された IgSF 分子群の機能解析と、対応する接着分子病の実態解明:まず、成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)、小細胞肺がん(SCLC)で高発現しマウスでの腫瘍形成や転移を促進する機能を示す細胞接着分子CADM1による浸潤、転移促進の分子機構を検討した。マウスT細胞白血病細胞EL4に CADM1を発現させ、一方宿主マウスは Cadm1, Cadm4遺伝子欠損マウスを用いて、CADM1-CADM4の相互作用をマウス尾静脈―肝臓転移系にて検討し、白血病細胞と宿主細胞両者のCADM1の相互作用が転移を促進することを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の3項目について、順調な成果を挙げたと評価できる。 1)IgSF 389分子、インテグリン24分子の分子間結合検索系の構築:IgSF 389分子中、300分子以上をクローニングしたこと、280分子について、ALPHA法にて結合相手分子を同定できる実験系を構築できたことかた、概ね順調な進捗であると評価できる。 2) がん転移、腫瘍免疫、ウイルス感染に関わる細胞間接着鍵分子の同定:ATL, SCLCで浸潤、転移を促進するIgSFである細胞接着分子CADM1の結合分子として6種のIgSF分子を同定、確認したこと、また、免疫チェックポイントに関わるオルファン・リガンドの特異的結合分子として、各々、1-2分子の生物学的にも特徴的なIgSF 分子群の同定に成功したことから、極めて順調な進捗であると評価できる。 3) 同定された IgSF 分子群の機能解析と、対応する接着分子病の実態解明:がん転移に関して、ATL, SCLCで浸潤、転移を促進する細胞接着分子CADM1の腫瘍細胞側の発現と、宿主細胞側の発現の双方が転移に必須であることを示し、宿主細胞の細胞接着分子の動態が、がん転移の成立を修飾するという新しい知見を得たことから、極めて順調な進捗であると評価できる。 以上、得られた知見から、特定のIgSF分子を介する細胞接着が、がんの転移や免疫チェックポイント機能に重要であることが明らかになったことから、課題全体として順調な進捗であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
「細胞接着分子群の結合の網羅的解析による新規がん病態解析法の構築と鍵分子の機能解析」の研究課題の下に、以下の3項目について研究を進行中である。初年度の進捗を踏まえ、R3年度は以下の課題に取り組み、IgSF細胞接着分子の意義を確立する予定である。 1)IgSF 389分子、インテグリン24分子の分子間結合検索系の構築:特定のIgSF分子と結合する、IgSF分子群、並びにインテグリン分子群を網羅的に解析する実験系として、分子間相互作用の検出をALPAH法のみでなく、SPRi法でも検討すること、さらに固相化IgSF分子群に、直接細胞を結合させて、分子―細胞相互作用をSPRi法にて検出する実験系の構築を目指す。 2) がん転移、腫瘍免疫、ウイルス感染に関わる細胞間接着鍵分子の同定:がん転移や免疫チェックポイントに関わるIgSF分子群の同定に加えて、特定のウイルスの受容体の検索にも本実験系を適応して、受容体や受容体様分子の同定を目指す。 3) 同定された IgSF 分子群の機能解析と、対応する接着分子病の実態解明:がん転移については、転移成立に関わるCADM1の宿主側の発現組織・細胞の同定を目指して、血管内皮細胞などの間質細胞の関与を検討する。免疫チェックポイントに関しては、同定された分子間結合の阻害による免疫細胞の免疫抑制の回復の有無を in vitro, in vivo の系で検証する。またウイルス受容体が同定された場合には、その生理的機能、病的異常を把握する。 これらの研究により、IgSF分子を介する細胞接着が惹起する生理的機能をまとめ、その破綻によるがんの転移や腫瘍免疫の異常と対応させて、細胞接着分子病の実態を解明する。
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