研究課題
新しいがん患者層別化法を確立するため、異なる起源で異なる変異を有する人工がん細胞株を作製し、多種ポリマーに対する細胞の網羅的な足場嗜好性を比較した。5つの肉腫特異的キメラ遺伝子(SS18-SSX、EWSR1-FLI1、PAX3-FOXO1、ASPSCR1-TFE3、NAB2-STAT6)を3つの起源細胞(線維芽細胞、筋芽細胞、間葉系幹細胞)に導入した計15種類の人工肉腫細胞株を用意した(共同研究者により作製)。人工微小環境は計382種類のアクリル系ポリマーをquadruplicateにスポットした15枚のアレイスライドを準備し(海外共同研究者により作製)、その上で各キメラ遺伝子導入細胞を起源細胞と共に培養した。蛍光顕微鏡(BioRevo, BZ-X800)搭載の画像解析ソフトを用いて、総22,920スポットのポリマー上に接着した細胞数を蛍光ベースで数値化し、PCAとt-SNEによる次元圧縮を実施したところ、3つの起源細胞が類似のポリマー嗜好性を示したのに対し、キメラ遺伝子導入細胞の殆どがその起源毎にユニークなポリマー嗜好性を示すことが明らかとなった。このような生きたがん細胞の網羅的な微小環境適合性は、新規のオミクス階層polymerome(ポリメローム)と命名した。以上の成果は従来のゲノム診断では判断することのできない同一サブタイプ患者内での更なる層別化にpolymerome解析が有効であることを示唆しており、比較的高い網羅性を担保したフェノミクス階層を創設したという点において学術的にも大変意義のある成果と考える。
2: おおむね順調に進展している
当初の目標であった人工微小環境アレイを用いて新規フェノミクス階層を創出するという目標を既に達成し、今後、本階層の意義と診断法としての精度・適応の検証に移行できる状況にある。
本フェノミクス階層の意義を確立するため、細胞起源と相関のある悪性形質を浸潤・術中検出回避・抗がん剤耐性・放射線耐性などがん幹細胞性の観点から探る。また、サブタイプ分類の既に確立されている膠芽腫などに適応拡大を行い、他オミクス階層との間に相互補完的な側面を探る。さらに診断法としての精度向上を目指して、階層の構成要素すなわちポリマープローブを新たに合成し新規オミクス階層としての規模拡大を図る。
2020年度に統計解析専用ソフトを購入する予定であったが、フリーソフトを用いた統計処理で結論を導くに十分であったため未使用額が発生した。2021年度に術後患者由来がん幹細胞株を用いた解析を追加検証予定の為、幹細胞培養用サイトカイン等の購入費に充てることとしたい。
すべて 2021 2020 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.tmd.ac.jp/mri/scr/index.html