研究実績の概要 |
昨年度マウス肉腫様細胞株を用いて生きた細胞の網羅的なポリマー嗜好性(人工微小環境適合性)を数値化し、新規フェノミクス階層「polymerome(ポリメローム)」を創設した。今年度はこの新規オミクス階層の患者細胞、および異なる癌腫への適応可能性を検証するため、3つの膠芽腫初発患者由来細胞株(KBT#12137, KBT#10135, KBT#10170)、および2つの再発患者由来細胞株(PDM19, PDM22)(一部共同研究者により樹立)のトランスクリプトームおよびポリメロームデータを取得し、比較解析した。トランスクリプトームに基づく既存の膠芽腫サブタイプ分類を行ったところ、KBT#12137, KBT#10135, PDM19とKBT#10170, PDM22の2群に分類された。一方、ポリメロームのPCAおよびt-SNE解析による次元圧縮を行ったところ、KBT#10170, PDM19, PDM22の3株のみが類似のポリメロームを呈し、一つのクラスターを形成することが分かった。そこで各細胞株におけるグリオーマの第一選択薬テモゾロミド(TMZ)の相対IC50値を測定したところ、同一クラスターに位置した上記3株が他と比較してTMZに高い耐性を示し、総じて弱いポリマー嗜好性を示す細胞株がTMZに耐性の高いことが明らかとなった。これらの結果は独自に確立したポリメローム階層が患者細胞および複数の癌腫において従来のトランスクリプトームでは判断することの難しかった臨床的意義の高い細胞特性(すなわちがん幹細胞性)を層別化し得る可能性を示唆しており、患者間の異なる治療感受性や再発リスク、予後等の予測診断法開発へ繋がる極めて重要な成果と考えられる。
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