研究課題/領域番号 |
20K21542
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 養子免疫療法 / 薬剤耐性 / バーコード |
研究実績の概要 |
本年度は、マウスでのCTL耐性進化軌跡の解明に向けたがん細胞株移植モデルを確立した。具体的には、neoantigenとしてmERK2を持つマウス繊維肉腫の細胞株CMS5aとmERK2特異的なTCRを持つトランスジェニックマウスDUC18の組み合わせを対象とし、がん細胞側の多様性がどのように養子免疫療法(Adoptive T cell therapy : ACT)から逃れて耐性化するかを検討するための実験系を構築した。mERK2特異的なT細胞の移植によって一旦増殖抑制はかかるものの、全ての移植群で最終的には耐性化したがん細胞集団が再増殖してくることがわかった。エクソームシークエンス解析からは、耐性がんが完全にmERK2-negativeであることが同定され、腫瘍特異抗原の消失による免疫逃避機構が明らかとなった。GFPラベルした耐性細胞とDsRedラベルした感受性細胞の混合移植実験では、ACT後の腫瘍組織が全てGFP-positiveであったことから、治療後に増殖してくる集団はpre-existingかつgenetically distinctな耐性細胞由来であることが示唆された。しかしながら、感受性細胞集団をシングルセルクローン化して移植実験を行った結果、非常にレアな確率で耐性化するケースが認められたため、上記の先天的耐性化モデル以外に後天的な獲得耐性による薬剤耐性化機構も存在することがわかった。現在、個々のがん細胞をバーコードライブラリでラベルしたCMS5a細胞株の準備と移植実験系の構築を進めており、本実験モデルからバーコード情報によるFate Mappingを行うことでACTに対する耐性進化軌跡の統合的解明を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ACTに対する耐性化実験モデルとして、mERK2変異陽性のマウス繊維肉腫の細胞株CMS5aとmERK2特異的TCRを持つトランスジェニックマウスDUC18の組み合わせの実験系構築を終えた。エクソームシークエンスやシングルセルクローン解析によってCMS5aにおける耐性化メカニズムの検証を進め、薬剤耐性化は(1)mERK2変異を欠損したpre-existingな耐性細胞に由来し得ること、(2)後天的にも耐性化変異を獲得し得ることの両者によってもたらされることを見出した。感受性細胞のシングルセルクローンが一部後天的に耐性を獲得する機構が発見されたため、どのようなコンテクストにおいて獲得耐性化が起こるのかを検討し、ACTの開始タイミングがキーとなっていることを見出した。具体的には移植5日後にACTを開始すると全ての移植群で耐性化してこないのに対し、治療開始を遅らせるに従って耐性化の頻度が上昇し、移植17日後からACTを開始した群では全て耐性化した。これらの結果は、ACTに対する耐性化メカニズムの複雑性が高いこと、単純な移植実験モデルではその全容解明が困難であることを示すものであった。そこで当初の計画通り、現在一つひとつのCMS5a細胞を異なるバーコードでラベルして追跡する移植実験系の構築を進めている。バーコードライブラリウイルスの準備とその感染まで終えており、今後このバーコード化細胞を実際に移植してACT耐性化実験を進める予定である。以上のように、当初の研究計画はおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
1細胞ごとに異なるバーコードでラベルして進化軌跡を時間的に追跡することで、上記の異なる耐性化メカニズムがいつどのように発現してくるのかを明らかにしていく。バーコード化細胞の移植実験では、移植細胞数やACTの投与開始日等について上述の最適化した実験系を用いて解析を進める。耐性化に伴って増大する腫瘍組織を時系列にサンプリングし、次世代シークエンスにてバーコード情報を紐解く。これらの実験を複数のマウスレプリケイトを準備して実施し、レプリケイト間で同一バーコードが濃縮するのか異なるバーコードが同定されるのかを解析することで、それぞれpre-existingとacquired resistanceを判別する。本年度の進化軌跡解析からは、pre-existingな耐性獲得機構の主要因として遺伝子変異が示唆されているため、バーコード化細胞の耐性化モデルについても蛍光in situハイブリダイゼーションによる染色体解析やエクソームシークエンスによる遺伝子変異解析を行う。一方で、ACT開始日の遅延に従って感受性細胞クローンが耐性化する獲得機構に関しては不明瞭な部分が多いが、薬剤投与されるとエピジェネティック機構を利用して休眠状態となるパーシスター細胞の存在が示唆される場合は、ヒストンマススペクトロメトリーやクロマチン免疫沈降シークエンス等により解析を進め、どのようなエピジェネティック変化がパーシスター細胞集団を規定しているかを解明する。本研究の推進により、多様ながん細胞集団における個々の細胞のACT応答に関する機能的な境界が同定され、ACT耐性細胞の発生起源とその維持に関わる制御機構を突き止めることが可能となる。これにより、生物が本来的に有する多様性という概念に深く根ざした疾患であるがんの免疫応答メカニズムに対する理解が深まり、免疫療法の効果を飛躍的に高める突破口を切り開きたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
人件費の見込額が変更となったため、次年度使用額が生じた。未使用額は次年度の実験に必要な物品の購入に使用する予定である。
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