本研究では、養子免疫療法ACTに対する耐性進化軌跡の理解に向けたACTマウスモデルを確立し、その耐性化メカニズムの解明を進めた。mERK2変異陽性のマウス繊維肉腫の細胞株CMS5aとmERK2特異的TCRを持つトランスジェニックマウスDUC18の組み合わせを対象とし、がん細胞側の多様性がどのように養子免疫療法に対する耐性化に寄与し得るかを検討するための実験系を構築した。本モデルによる耐性化メカニズムの検証から、養子免疫療法に対する耐性化は(1)mERK2変異を欠損したpre-existingな耐性細胞に由来し得ること、(2)後天的にも耐性化を獲得し得ること、の両者によってもたらされることを見出した。さらに、ACTの実験系に1細胞バーコーディングの技術を適用することで、治療抵抗性の獲得過程における多様ながん細胞集団の進化ダイナミクスを解明するための実験基盤を構築した。具体的には、発現型バーコード法「LARRY」を用いて1細胞ごとに異なるバーコードを保持するCMS5a細胞株を樹立し、バーコード化細胞のin vivo移植の実験系を最適化することで十分な数の細胞をin vivoにて追跡可能な実験系を構築することができた。発現型バーコード法は1細胞RNAシーケンスにてトランスクリプトーム情報と共にバーコードを読み取ることが可能であることから、構築した発現型バーコードの実験系と空間トランスクリプトーム解析を組み合わせたアプローチの検証を現在進めている。空間トランスクリプトーム解析を1細胞以下の解像度で実施可能な10xVisium HDが次年度後半に登場予定であるため、今後バーコード情報によるFate Mappingをシングルセルレベルの空間的遺伝子発現解析と同時に行うことで、細胞の内的な状態遷移ダイナミクスと、それらの微小環境との相互作用を解き明かしていきたいと考えている。
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