研究課題
原発性硬化性胆管炎(PSC)は慢性胆管炎により肝不全に至る予後不良な疾患でしばしば胆管がんを合併し致死的となるが、PSCの病因・病態の詳細は未だ多くが不明である。最近、正常細胞のゲノムにはその細胞が曝された環境下で獲得した遺伝子変異が刻まれており、時にこれにより細胞は進化してその環境に適応し、細胞数を増加させる(ドライバー変異によるクローン拡大)ことが明らかになった。このような遺伝子変異の解析はがんの原因を特定するだけにとどまらず、慢性炎症性疾患の病態解明をも可能にする。本研究では、胆管上皮オルガノイドと胆管がんのゲノム解析を通じてPSCの病態および発がんメカニズムの解明を試みる。研究初年度である2020年度はPSC患者由来の検体(胆汁および外科的切除胆管)を収集し、網羅的ゲノム解析を実施するためのオルガノイド培養技術を確立した。作成したオルガノイドはバルクのまま、もしくは単一細胞由来コロニーを作成した後に全エクソン解析を実施した。慢性炎症に曝露されていない健常コントロールとして非PSC患者由来の胆管上皮オルガノイドを樹立し、全エクソン解析を実施した。これらの観測により、胆管上皮細胞の体細胞変異蓄積率の推定および変異シグニチャの解析が可能となった。さらに、肝移植症例のドナー肝から多数の検体を密集して採取し、遺伝子変異クローンの拡大の有無の検討を行った。これらの研究結果を第79回日本癌学会学術総会で報告した。
2: おおむね順調に進展している
研究初年度である2020年度は患者検体の解析手法を確立し、網羅的ゲノム解析による体細胞変異の検出手法を確立することに焦点を当てた。PSC患者5例から計300検体ほどを集積し、全エクソン解析による解析を実施した。これと並行して非PSC患者4例からも胆管上皮オルガノイドを樹立してコントロールとして用い、遺伝子変異の蓄積率の推定や変異シグニチャ解析を行った。本研究は計画に基づいて概ね順調に進捗している。
2021年度は昨年度に引き続きPSC患者・非PSC患者からのさらなる検体の集積・解析と、PSC胆管がんのゲノム解析を行うことによりPSC胆管がんの発がん基盤の解明についても解析を実施する予定である。具体的には以下の通りである。【研究① 胆汁および胆管検体から作製した正常胆管上皮オルガノイドのゲノム解析】PSC患者が胆汁ドレナージ術を受ける際に胆汁を採取し、胆汁中の胆管上皮細胞を三次元培養(オルガノイド培養)により純化する。また、肝移植時のレシピエント肝から区域毎にオルガノイド培養を行う。樹立したオルガノイドを全エクソン解析する事により、PSCによる慢性炎症下で上皮細胞が獲得したドライバー変異を同定し、PSC病態の解明を試みる。肝移植症例ではこれらドライバー変異クローンの拡大を観察する。また遺伝子変異のパターン(変異シグニチャ)から遺伝子変異導入の原因を特定する。【研究② PSC胆管がんおよび散発性胆管がんのゲノム解析】PSC患者に合併した胆管がんの全エクソン解析を行う。これにより、PSC合併胆管がんのドライバー変異を特定する。これを①で特定した胆管上皮細胞の遺伝子変異情報と比較することで、PSC胆管がんの祖先クローンが有するゲノム異常を特定し、胆汁を用いた発がんリスクの予測法の確立を試みる。また、公開されている散発性胆管がんデータと比較することにより分子病態の異同を明らかにし、PSC胆管がん治療についての知見を得る。
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Nature Reviews Cancer
巻: 21 ページ: 239~256
10.1038/s41568-021-00335-3