原発性硬化性胆管炎は慢性胆管炎により肝不全に至る予後不良な疾患でしばしば胆管がんを合併し致死的となるが、原発性硬化性胆管炎の病因・病態の詳細は未だ多くが不明である。最近、正常細胞のゲノムにはその細胞が曝された環境下で獲得した遺伝子変異が刻まれており、時にこれにより細胞は進化してその環境に適応し、細胞数を増加させる(ドライバー変異によるクローン拡大)ことが明らかになった。このような遺伝子変異の解析はがんの原因を特定するだけにとどまらず、慢性炎症性疾患の病態解明をも可能にする。本研究では、胆管上皮オルガノイドと胆管がんのゲノム解析を通じて原発性硬化性胆管炎の病態および発がんメカニズムの解明を試みる。 研究開始2年目である2021年度は原発性硬化性胆管炎患者由来の肝移植レシピエント肝や胆汁検体から樹立したオルガノイドのシーケンスを行った。また、非原発性硬化性胆管炎患者由来の検体も収集し、コントロールとしてオルガノイドを樹立しシーケンスを行った。その結果、加齢に従って胆管上皮細胞に生じる遺伝子変異の蓄積速度を求めることが可能であった。原発性硬化性胆管炎患者ではこの変異蓄積度が加速していると考えられた。また、1症例から複数の検体を採取して全エクソン解析を行い、遺伝子変異の共通性から系統樹解析を行ったところ、原発性硬化性胆管炎患者では複数検体間で遺伝子変異が共有されており、クローン拡大していることが判明した。これらの研究結果を第80回日本癌学会学術総会で報告した。
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