研究課題
apico-basal極性を制御する遺伝子である scribble (scrib) の null 変異を有する細胞クローンをショウジョウバエの複眼原基に誘導するとクローン境界領域の変異細胞は細胞死によって排除される。この現象は細胞競合と呼ばれる。しかし、scrib 変異細胞内でがん遺伝子 Ras の活性化 (RasV12) を誘導すると細胞(Ras/scrib細胞)は排除に抵抗性を示すようになり、逆に過剰な増殖を伴って浸潤・転移する悪性腫瘍を形成する。すなわち本モデルはがんの悪性化を駆動する分子機構を生体レベルで大規模に解析できる優れたモデルである。昨年度までの研究では、Ras/scrib細胞の過剰な増殖における分化度の低い細胞の意義について解析を進めてきた。最終年度の研究から、Ras/scrib細胞は一定数の細胞塊になるまでは組織微小環境からさまざまな淘汰圧を受けていること、さらに細胞塊を形成している細胞数が一定数を超えると急激に細胞の性質に変化が認められることを見出した。遺伝学的・生化学的な解析の結果、このときの性質の変化はストレスキナーゼであるJNKに依存的であること、さらに、何らかの分泌因子に依存的であることを示唆する結果を得た。この結果は、遺伝学的に誘導したいわゆる「均一な」悪性腫瘍が、細胞数に依存的にそれまでとは異なる形質を獲得する可能性を示唆している。今後はこの現象を制御する分子を遺伝学的、生化学的な腫瘍を用いて大規模に探索し、解析を進める。
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