研究課題/領域番号 |
20K21553
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
北嶋 俊輔 公益財団法人がん研究会, がん研究所 細胞生物部, 研究員 (90566465)
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研究分担者 |
日野原 邦彦 名古屋大学, 医学系研究科, 特任准教授 (50549467)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | cGAMP / STING |
研究実績の概要 |
これまでに研究代表者は、がん細胞において細胞質内二本鎖DNAセンサーであるSTING経路が抑制されることにより、がん特異的抗原提示能の低下や腫瘍組織浸潤リンパ球の減少につながり、免疫チェックポイント阻害薬に対する治療抵抗性に寄与することを明らかにした。そこで、がん細胞自身を標的としたSTING経路活性化が、がん免疫療法抵抗性を克服するための治療戦略として有効であると考え、本研究では、これまでにほとんど明らかになっていない細胞内在性STINGアゴニスト2’3’cGAMP(以降cGAMP)の輸送体を同定することを目的とする。 ① cGAMP処理前後での遺伝子発現変動解析 本年度は、主に単一細胞解析に使用するための細胞株の選定とcGAMP処理条件の検討を詳細に行った。STING経路が抑制されていることが報告されている種々のヒト由来の肺がん細胞株、大腸がん細胞株、メラノーマ細胞株を用いて、細胞外にcGAMPを投与したところ、H1944やH2122、H647、A375株などのヒトがん細胞株において、cGAMP投与後3-6時間程度でSTING経路が活性化することを明らかにした。STING経路の活性化には細胞外に分泌されるSTING下流サイトカインCXCL10の濃度をELISAにより評価した。また細胞外に添加するcGAMPの濃度を検討し、投与条件の最適化を行った。 ② 単一細胞解析用バーコード化標識を実施するための条件最適化 単一の細胞を転写ランドスケープレベルで追跡するための実験系最適化を行った。発現バーコードライブラリを用いて、A375株を含む複数のがん細胞を一細胞レベルでラベルし、10x Genomics社の1細胞解析キットにてトランスクリプトーム情報とバーコード情報を同時取得するための実験系と解析系の構築を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度の研究実施計画は主に「① cGAMP処理前後での遺伝子発現変動解析」および「② 単一細胞解析用バーコード化標識を実施するための条件最適化」であった。 ①に関しては、これまでに研究代表者らやその他のグループから、肺がん細胞や大腸がん細胞、メラノーマ細胞などでSTING経路が抑制されることが報告されており、2020年度はこれら既報の細胞株を用いて、単一細胞解析を行うための細胞外cGAMP投与の最適化を行った。単一細胞間での感受性の差異を検出するため、CXCL10の発現上昇を指標として、短期間かつ低濃度で明確なSTING活性化が観察される条件を検討した。具体的には、細胞株ごとに多少の違いはあるものの、約5-10 mg/mlのcGAMPで3-6時間刺激を行うことが最適であると決定した。本年度は、最適化した条件を用いて、実際に単一細胞発現解析を実施する予定であるが、使用するための細胞株の選定とcGAMP処理条件の最適化という2020年度の研究目標に関しては、おおむね順調に達成したと考えられる。 ②に関しては、主に発現バーコードライブラリのウイルス感染条件最適化とバーコード化細胞の1細胞解析予備実験を行った。細胞ごとに異なるバーコードで標識するため、MOI0.1にてレンチウイルス感染を行い、その後GFPソートすることで複数のバーコード化細胞を樹立した。予備検討として10xによる1細胞解析を行い、データからトランスクリプトーム情報に加えてバーコード情報を取り出す解析手法の確立を進めている。以上より、1細胞解析用バーコード化標識を実施するための条件最適化という2020年度の研究目標に関して、おおむね順調に達成したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
① バーコードライブラリーを用いた細胞標識:昨年度に投与条件の最適化を行ったヒトがん細胞株を用いて、RNA型発現バーコードあるいは必要に応じてDNA型バーコードにより標識する。発現バーコードライブラリレンチウイルスをMultiplicity of infection 0.1で感染させ、単一細胞ごとに1万種類の異なる発現バーコードで細胞を標識する。 ② cGAMP処理前後での単一細胞レベルでの遺伝子発現変動解析:cGAMP未処理あるいは3時間処理したバーコード化済み細胞株からそれぞれRNAを回収した後、10xGenomicsを用いた単一細胞RNAシークエンスにより、バーコード情報と遺伝子発現プロファイルを同時に読み取る。10xGenomicsデータはパイプラインCell Rangerにて解析し、tSNEもしくはSPADEにより可視化することによって2’3’cGAMP処理前後による遺伝子発現変化を単一細胞レベルで捉える。 ③ cGAMP輸送体候補遺伝子の抽出と機能解析:様々なSTING標的遺伝子を含むGene set「STING SIGNATUR」を用いて、cGAMP処理前後におけるエンリッチメントスコアの変動を計算し、単一細胞レベルでcGAMPに対する反応性の高低による順位付けを行う。次に、刺激前における発現量が反応性と正に相関する遺伝子群を抽出する。次に、CRISPR/Cas9系を用いて候補遺伝子の欠損細胞を作製し、細胞外cGAMPに対する反応性を検討する。STING活性化マーカーとしてCXCL10の分泌亢進をELISAにより測定する。コントロール実験として、トランスフェクションによるcGAMP導入を実施し、候補遺伝子が膜輸送体を介したcGAMP取り込み特異的に作用するか否かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2年間の直接経費の総額を2020年度と2021年度に均等に配分したが、実験の最適化が中心であった2020年度よりも、本格的に次世代シークエンサー等による解析を実施する2021年度により多くの物品費等の必要が生じた。そのため、2021年度に請求予定であった予算分と本年度からの差額分を合わせることで、2021年度に予定していた研究課題を効率的に遂行できると判断した。また本課題が採択された2020年8月から終了時期である2022年3月までの全体の研究期間に対して、2020年度が占める時間的な割合の少なさからも、2021年度へ配分することで効率的に研究課題を遂行できると考えた。
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