前年度までの検討により、Phen-DC3やテロメスタチン、オキサゾールテロメスタチン誘導体などのグアニン四重鎖(G-quadruplex: G4)安定化化合物(G4リガンド)処理によって増殖が強く抑制される14種類のヒトがん細胞株の中に、G4リガンドを処理しても53BP1やγH2AXなどのDNA損傷応答因子の核内フォーカスが顕著に誘導されない細胞株が8種類存在することを見出した。今年度は特に、これらのDNA損傷非依存的なG4リガンド高感受性がん細胞株に焦点を絞り、前年度までに選別した、G4リガンドの合成致死候補因子群の遺伝子発現を小分子干渉RNAによりノックダウンした。その結果、ノックダウンにより上述の種々のG4リガンドに対する細胞の感受性を増大させる、新規合成致死因子Xを見出した。対照として、因子Xのノックダウンは、G4リガンド以外の細胞傷害性抗がん剤、ゲムシタビンおよびパクリタキセルの細胞増殖抑制効果は増強しなかった。G4リガンドのDNA損傷非依存的な制がん効果の分子メカニズムとしては、G4形成配列を有するmRNAからタンパク質への翻訳が抑制されることが明らかとなった。Phen-DC3やテロメスタチンを処理したがん細胞のプロテオーム解析を行ったところ、これらのG4リガンドで減少するタンパク質は、遺伝子のコード鎖(センス鎖)におけるG4形成配列の密度が有意に高いことが明らかとなった。以上より、G4リガンドはDNA損傷を誘導するのみならず、特定のタンパク質の生合成を抑制することで制がん効果を発揮している可能性が示唆された。
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