研究課題/領域番号 |
20K21557
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
野村 洋 北海道大学, 薬学研究院, 講師 (10549603)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 脳・神経 / 記憶 |
研究実績の概要 |
記憶の想起障害は認知症の主症状の1つであり、想起の神経機構の解明が期待される。記憶は脳の広域に渡るセルアセンブリに保存され、各領域のセルアセンブリが適切に再活性化することで想起される。恐怖条件づけでは、海馬、脳梁膨大後部皮質、嗅内皮質、扁桃体基底外側核などの局所セルアセンブリの演算と、領域間の情報伝達が共に重要である。しかし従来、局所回路のセルアセンブリ研究と領域間の情報伝達に関する研究は独立して行われてきた。そのため、ある領域内セルアセンブリが他領域のセルアセンブリとどのような関係にあるかは不明であった。そこで本研究では、記憶の想起を司る多領域セルアセンブリの協調した活動を解明することを目指して研究を行う。まずイメージングの改良を行った。本研究で活用する脳深部in vivo Ca2+イメージングは比較的難易度が高い実験法である。このイメージングを本研究では複数の脳領域から同時に行う。1箇所イメージングの成功率が50%だとすると、n箇所から同時イメージングの全体の成功率は0.5のn乗であり、非常に低くなる。そこでGRINレンズ埋め込み速度の検討、各種使用器具の滅菌、出血をなるべく抑える検討など、脳手術の検討を重点的に行なった。その結果、イメージングの成功率を飛躍的に向上させることに成功した。さらにエアパフ刺激を用いた条件づけにも取り組み、まばたきを精度良く検出することにも成功した。これまでに確立した手法を組み合わせて恐怖条件づけ学習中のイメージングを行うことで、記憶の想起を司る多領域セルアセンブリの協調した活動を解明できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多くの脳領域の協調した活動によって脳機能は制御されると考えられるが、こうした多領域の多細胞の活動を同時に測定・解析することは困難だった。本研究では多領域、多細胞からのイメージング法の改良に取り組み、実験成功率の向上に成功した。この改良は本研究の遂行に必須である。また、記憶課題としてエアパフ刺激も確立した。こうした実験系の確立により、予定通り脳広域に渡る記憶セルアセンブリを再活性化する神経メカニズムの解明に取り組むことができる。以上を総合的に考え、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に確立したイメージング法や記憶課題を活用し、脳広域に渡る記憶セルアセンブリを再活性化する神経メカニズムの解明に取り組む。記憶想起時に、海馬の記憶セルアセンブリが他領域の記憶セルアセンブリとどのように関連して活動するか調べる 恐怖条件づけを行い、その翌日に恐怖記憶を想起させた時に、複数領域から同時Ca2+イメージングを行う。記憶の想起時に、各領域内で活動する細胞集団について詳細に解析する。さらに、領域内の記憶セルアセンブリが、他領域の記憶セルアセンブリとどのように関連して活動するかを調べる。文脈依存的恐怖条件づけ記憶は、学習直後は海馬依存的であるが、1ヶ月経過すると海馬が不要となる。そこで、学習1日後において海馬の記憶セルアセンブリが他領域の記憶セルアセンブリとどのように関連するか、学習1ヶ月後は海馬以外の領域の記憶セルアセンブリがどのように関連するかを検証する。一連の検討を通じて、海馬とその他の脳領域によって短期記憶、長期記憶の想起がどのように制御されるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
イメージングを行うために準備した動物から、複数回のイメージング実験を行うことができたため、実験動物や手術のための消耗品、イメージングのための消耗品を節約できた。そのため次年度使用額が生じた。令和3年度はイメージング実験の効率と精度を向上するための物品等に充てることで、研究の進展を加速させる。
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