認知症をはじめとした認知機能障害において、過去の記憶を思い出せない、想起障害が生じる。そのため、想起の神経機構の解明が期待される。記憶は脳の広域に渡って保存されると考えられるが、これまでの多くの研究では特定の脳領域に注目した解析が多く、脳の広域にわたってどのように記憶情報が処理されるかは不明だった。そこで本研究では、記憶課題中の脳広域の神経活動を測定、解析する実験系を構築した。 文脈恐怖条件づけは、記憶形成からの時間経過によって脳の広域が情報処理に関与することが示唆されているため、文脈恐怖条件づけを記憶課題として選んだ。脳広域の神経活動を安定して測定するためには、マウス頭部を固定して実験をすることが望ましい。一般に文脈恐怖条件づけは自由行動下のマウスを対象として行われるため、まず頭部固定マウスを用いた文脈恐怖条件づけの実験系を構築した。LEDの点滅、匂い、音、床の感触を変えることで複数の文脈を設定した。そして条件づけとして、ある文脈でのみエアパフ刺激を与えた。条件づけ反応としては、水を飲むためのリッキング行動を用いた。条件づけを行った後、条件づけを行った文脈に再びマウスを暴露すると、マウスのリッキング行動は低下した。このように、マウスの動きにある程度制限がある中でも文脈的条件づけを成立させることができた。このような頭部固定マウスを対象として脳広域の神経活動をin vivoカルシウムイメージングによって測定した。蛍光カルシウムセンサータンパク質jGCaMP8mを脳広域に導入した。一連の実験系を統合することで、行動課題中の脳広域の神経活動を測定することができた。こうした実験系は記憶の情報処理に関わる脳広域の神経活動の解明に貢献すると考えられる。
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