研究実績の概要 |
イルカは、霊長類とは全く異なる進化の道をたどることで、高度に発達した脳を持つに至った。しかし、そのようなイ ルカの脳の構造や機能は、驚くほど霊長類とは異なる。とすると、これまで暗黙の前提だった霊長類脳の基本構造や機能は、ヒト脳の高次機能に必須の条件ではないかもしれない。イルカの脳には、脳の基本原理を新しい角度から照らし直す、新知見の宝庫の期待がかかる。 しかし、生きたイルカの脳を調べる手段がない。そこで本研究は、水中のイルカから無麻酔かつ無侵襲で脳波を記録する技術を確立することで、イルカ脳科学への道を切り開くことに挑戦する。 本研究の技術的な中核は、吸盤電極とアクティブ電極を合体させた“吸盤アクティブ電極”の新開発である。水中でのイルカの脳波記録には、吸盤による電極の設置が有効なことが示されている(Nachtigall, 2007など)。アクティブ電極は、電極部に増幅器を組み込むことで体動やリード線の動揺によるノイズの混入を防ぐ技術であり、ヒトの脳波記録で実用化されている。この2つの既存技術を組み合わせたものが、本研究に独自の“吸盤アクティブ電極”である。これにより、ノイズの少ない高品質の脳波データが、水中のイルカから無侵襲で記録できる。 “吸盤アクティブ電極”を製作し、イルカでの脳波記録を試すことで、改良を繰り返した。また、水中で静止したイルカにこの電極を付けるためのトレーニングを実施した。さらに、イルカに水中で音を聴かせるための機材のセットアップを行い、音圧の校正を実施した。その上で、音刺激をイルカに馴化させるトレーニングも実施した。イルカ脳波記録の成功まで、あと一歩のところまで到達した。
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