研究課題/領域番号 |
20K21559
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
伊藤 浩介 新潟大学, 脳研究所, 准教授 (30345516)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 脳進化 / イルカ / 聴覚 / 脳波 |
研究実績の概要 |
イルカは、霊長類とは全く異なる進化の道をたどることで、高度に発達した脳を持つに至った。しかし、そのようなイルカの脳の構造や機能は、驚くほど霊長類とは異なる。とすると、これまで暗黙の前提だった霊長類脳の基本構造や機能は、ヒト脳の高次機能に必須の条件ではないかもしれない。イルカの脳には、脳の基本原理を新しい角度から照らし直す、新知見の宝庫の期待がかかる。 しかし、生きたイルカの脳を調べる手段がない。そこで本研究は、水中のイルカから無麻酔かつ無侵襲で脳波を記録する技術を確立することで、イルカ脳科学への道を切り開くことに挑戦する。本研究の技術的な中核は、吸盤電極とアクティブ電極を合体させた“吸盤アクティブ電極”の新開発である。水中でのイルカの脳波記録には、吸盤による電極の設置が有効なことが示されている(Nachtigall, 2007など)。アクティブ電極は、電極部に増幅器を組み込むことで体動やリード線の動揺によるノイズの混入を防ぐ技術であり、ヒトの脳波記録で実用化されている。この2つの既存技術を組み合わせたものが、本研究に独自の“吸盤アクティブ電極”である。これにより、ノイズの少ない高品質の脳波データが、水中のイルカから無侵襲で記録できることが期待できる。 昨年度までに“吸盤アクティブ電極”を製作し、今年度は20回ほどイルカでの脳波記録を試みた。結果、水中での脳波記録においては、電極の真下の皮膚に浸潤する海水の影響によるアーチファクトが大きく、これを除去するのは極めて困難との結論に達した。そこで、水槽の脇にランディングした状態での陸上記録に目的を切り替えた。これにともない、超音波刺激の提示方法を水中から骨伝導へと抜本的に変えることとなり、そのための準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
繰り返し試行した結果、水中での脳波記録では電極の真下の皮膚に浸潤する海水の影響によるアーチファクトが大きく、これを除去するのは困難との結論に達した。そこで、水槽の脇にランディングした状態での陸上記録に目的を切り替えた。これにともない、超音波刺激の提示方法を水中から骨伝導へと抜本的に変えることとなり、その準備に時間を要した。また、研究協力を得ている水族館の事情により(新型コロナの影響、飼育イルカの出産、施設工事など)、実験をできない期間が少なからずあった。以上の理由から、当初の計画より進展が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
水中ではなく陸上での記録へと目標を変更する。それには骨伝導で音刺激を提示する必要があるが、そのための刺激提示装置の開発を終えた。研究協力施設の事情によって研究の進展が滞ることがないように、研究協力施設を複数確保することを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
脳波記録の方法の軌道修正をしたことと、研究協力施設の事情などにより、当初の計画通りに研究が進まなかったため。
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