研究課題/領域番号 |
20K21562
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
春野 雅彦 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室, 研究マネージャー (40395124)
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研究分担者 |
田村 弘 大阪大学, 生命機能研究科, 准教授 (80304038)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 支配関係 / 協力 / 競合 / fMRI / 霊長類 |
研究実績の概要 |
本研究ではヒトと、ヒト同様に強固な序列関係を持ち高度な意思決定が可能なマカクザルを被験者として、支配関係のある複数被験者の協力・競合の脳内選択過程を明らかにすることを目的とする。 当該年度において、ヒト実験では、2名ずつをペアにして実験を行った。全部で42ペアのfMRI実験を実施した。被験者は、0-100円の範囲の自分の報酬と電気ショックの強さの組み合わせからなる選択肢を2つ提示されボタンを押して選択する。片方は報酬も電気ショックも大きく、他方は報酬も電気ショックも小さく設定されている。Self条件では電気ショックが自分に、もう一方のSocial条件では電気ショックは相手に与えられる。(条件は施行毎にランダム)Self条件と比べたSocial条件の行動がどう変化するかを測定し、相関するの活動をMRI解析により同定した。その結果、Self条件と比較してSocial条件で小報酬・小電気ショックの選択肢を多く選ぶ人はSocial条件における2つのオプションの電気刺激量の差に対して扁桃体と背側帯状回が相関する活動を示した。
大阪大学におけるサル実験では、年齢、体重、どちらが先に餌を取るかなどに基づいてすでに序列関係のわかっている3頭のマカクザルに人と同じ課題を訓練し自己へのジュース報酬量と相手顔面への空気吹付(エアパフ)強度の組み合わせの中で適切な選択肢を選ばせる実験を行った。ヒトのfMRI実験の結果に基づき、扁桃体と帯状回の神経細胞活動と向社会行動の関係を調べる計測の準備を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ヒトfMRI実験の結果、Self条件と比較してSocial条件で小報酬・小電気ショックの選択肢を多く選ぶ人はSocial条件における2つのオプションの電気刺激量の差に対して扁桃体と背側帯状回が相関する活動を示した。これはモラルを対象とするヒトの社会脳科学研究における新規の知見である。加えてヒトfMRI実験とパラレルな実験をマカクザルで実施する実験セットアップの準備が大きく進展し、今後モラル研究を神経細胞のレベルで進める土台になるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ヒトfMRI研究については50名程度まで被験者数を増やし様々な解析方法を複合的に用いて信頼性の高いデータを得る。また、ヒト研究においても被験者間に序列関係を導入する。本研究における重要な技術的挑戦は透明なタッチパネルの間に高解像度透明ディスプレイを挟み込み、相手のアイデンティティと表情を見ながらタッチによる行動選択を可能とする世界初の社会行動実験システムの構築であった。現段階ではプロトタイプシステムであるが、現在既にマカクザルが単独では報酬・エアパフの2択課題を行っている状況である。これを拡張し、2頭のサルが相手のエアパフを含めた選択を行う実験を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は既存のプロトタイプシステムの検証と課題設計、解析指針の作成に重点を置いたこと、新型コロナウイルスの影響で学会、研究打合せがオンラインとなり旅費を使用しなかったことで次年度使用額が生じた。 翌年度助成金と併せて実験システムの改良を計画している。
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