研究課題
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)における急性循環不全、呼吸不全に対するACE2様酵素B38-CAPの効果を検討するために、マウスの盲腸結紮穿刺(CLP)による敗血症性腹膜炎モデルならびに塩酸吸引によるARDSモデルでB38-CAPの治療効果を検討した。CLPにより敗血症を誘導したマウスでは全身性の炎症に伴いARDSを発症し、5日以内にマウスは全例死亡したが、B38-CAPの投与は有意に生存率を改善した。CLP後48時間の時点で解析を行ったところ、B38-CAP投与群では、肺水腫や肺病理での炎症所見が顕著に改善していた。また、塩酸吸引によるARDSモデルでも、B38-CAP投与群では、肺水腫、肺の炎症ならびに炎症性サイトカインの産生が顕著に抑制され、呼吸機能の低下も有意に改善された。この時、内因性ACE2の発現を調べたところ、ARDS肺ではACE2蛋白の発現量が有意に減少していた。血漿中のアンジオテンシンII(Ang II)を測定したところ、B38-CAPはARDSによるAng II濃度の上昇を顕著に低下させていたことから、B38-CAPのACE2活性が血管保護や血管透過性抑制により治療効果を発揮したと考えられた。また、COVID-19肺炎重症化モデルとして、塩酸吸引とSARS-CoV-2のSpike組換え蛋白によるARDSモデルの検討も進め、Spike組換え蛋白によりACE2蛋白の発現が抑制されることを見出した。さらに、B38-CAP組換え蛋白の毒性ならびに抗原性を検討したところ、血液中の肝機能や腎機能のマーカーに異常を認めず、マウス血清中のB38-CAPに対する抗体も検出できなかったことから、異種蛋白による毒性や免疫原性は低いと考えらられた。
2: おおむね順調に進展している
循環呼吸不全の実験動物モデルにおいて、ACE2様酵素の治療効果ならびにその作用機序を順調に解明している。
COVID-19における循環呼吸不全に対するB38-CAPの治療効果をハムスターあるいはヒトACE2 TgマウスのSARS-CoV-2感染モデルで検討する。また、B38-CAPを内因性ACE2に局在するような蛋白改変を行うことにより病変局所でのACE2活性を上昇させるための検討も進める。B38-CAPのB38-CAPが微生物由来蛋白であるので、プロバイオティクスのアプローチとして乳酸菌ベクターを用いた遺伝子治療についても検討を進める。
今年度に実施予定であったRNA-seq解析の実験が遅れて年度内実施に間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。翌年に当該実験を実施するために使用する予定である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件) 産業財産権 (1件)
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