【目的】統合失調症は妄想などの思考障害を呈する精神疾患であり、なかでも発話内容のまとまりのなさは「連合弛緩」と呼ばれ、重要視されてきた。連合弛緩は意味関係の異常であることがこれまで心理実験により示唆されてきたが、その神経病理は不明であった。本研究では統合失調症における意味関係の異常を脳活動に基づき検討するために、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて脳内意味表象を定量化し、そのネットワーク構造を評価した。 【方法】統合失調症患者と健常者を対象として、自然動画提示下fMRIを撮像した。動画情報と脳活動データに自然言語処理アルゴリズムWord2vecとエンコーディング・モデリングを適用し、脳におけるさまざまな意味表象を脳活動パターンとして定量化した。続いて、意味表象間の類似度に基づき構築した脳内意味ネットワークの構造特性を評価した。 【結果】健常者の脳内意味ネットワークは自然言語と同様に高いスモールワールドネスを示したことから、スモールワールドは意味知識に関するネットワークの普遍的性質であることが示唆された。一方、統合失調症の脳内意味ネットワークではスモールワールドネスは減少し、妄想の重症度と負相関していた。また、患者の脳内意味ネットワークは健常者よりも明瞭にカテゴリに区分されていたが、カテゴリ内のネットワーク構造はランダム化していた。本研究により統合失調症の連合弛緩は、脳内において意味ネットワークのランダム化として表れていることが明らかになった。また、本研究の手法は精神疾患患者の主観的体験を患者の発話に依ることなく脳活動から直接評価できる点で、診断、治療の新たな可能性をひらくものと期待される。
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