研究課題
本研究課題は、小胞体ストレスセンサーの活性化時に産生される小ペプチド(小胞体マイクロフラグメント)の生物学的機能の解明と病態への関与を明らかにすることを目的にしている。今年度は以下のことを明らかにした。1)小胞体マイクロフラグメントの物性・生化学的特徴;BBF2H7小胞体マイクロフラグメントは2量体ないしは3量体を形成しやすく、一度重合したものは100℃で加熱しても崩壊しない強固な凝集体を形成することがわかった。小胞体マイクロフラグメントの生成機構や高い凝集性が、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβタンパクと類似していることから、当該フラグメントの細胞毒性について次に検討した。合成したマイクロフラグメントを10μMの濃度で37℃、24時間インキュベートして凝集させた後、SK-N-SH細胞に作用させると48時間以内に細胞が死滅したことから、非常に強い細胞毒性を示すことが明らかになった。2)アルツハイマー病発症におけるマイクロフラグメントの役割;小胞体マイクロフラグメントがアミロイドβ1-40の凝集を促進するか検討した。5μMのアミロイドβ1-40にBBF2H7小胞体マイクロフラグメントを添加して37℃でインキュベートすると電子顕微鏡でアミロイド細線維形成が確認でき、小胞体マイクロフラグメントがアミロイドβ1-40の凝集・線維形成を促進させることが明らかになった。3)ヒトアルツハイマー病患者脳における小胞体マイクロフラグメントの動態;マイクロフラグメントを認識できる抗体を作製した。ウエスターンブロッティングやELISAにより、本抗体がマイクロフラグメントを特異的に認識することが確認できた。患者脳における発現レベルや凝集部位を調べるためにブレインバンクから脳組織を取り寄せ免疫染色による発現局在の解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
実績にも記述したように、計画した実験の多くが予定通りに進行している。ヒトアルツハイマー病脳でのマイクロフラグメントを検出する抗体の作製も予定通り進み、次年度に計画している脳内マイクロフラグメントの検出をいつでも行える状況になった。その他、マイクロフラグメント毒性の基礎データが積み上げられたことで、来年度実施する細胞内代謝機構の解明に向けても基盤が出来上がった。
これまでの研究を継続しさらに発展させていく。特に以下の点について集中的に解析を進める。1)マイクロフラグメントの細胞内代謝;小胞体ストレス時にマイクロフラグメントが細胞内のどこで産生され、どのオルガネラを経由して分解されるのか、あるいは分解経路から回避したマイクロフラグメントがアミロイドβタンパク質と細胞内外のどこで会合するのかなど、産生されたマイクロフラグメントの細胞内運命とアミロイドβタンパク凝集との関連について解析する。2)ヒトアルツハイマー病患者脳におけるマイクロフラグメントの発現・局在;前年度までに作製できた特異的抗体を用いて免疫染色を行い、アミロイドβタンパクが沈着する老人斑との位置関係を詳細に調べる。
解析に用いる合成ペプチドは外注しているが、実験が上手く進んだため合成するペプチド量が少なく済み経費が予定よりかからなかった。また、抗体の作製費用も予定より安価に済んだ。この2つの理由で生じた差額を使用して、次年度の細胞生物学的解析をさらに充実させた計画を組み込んだため、次年度使用額が生じた。
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