研究課題
われわれは血管内皮細胞上に発現して血液凝固を負に制御する膜蛋白、トロンボモジュリン(TM)が血管内皮保護作用をもつことを明らかにしてきた。これまでにTM分子の上皮細胞増殖因子様領域の19アミノ酸からなる構造に血管内皮保護作用があること、そしてそれは内皮細胞膜上のケモカイン受容体GPR15を介して発揮されることを報告した。また、TM分子には抗炎症があることも明らかにした。マウス造血細胞移植モデルを作製して、TMが抗炎症作用を発揮して移植片対宿主病を抑制することを検証した際に、TMが造血細胞の生着を促進することに気付いた。以上から、急性放射線障害に伴う造血不全や血管内皮細胞障害をTMは緩和可能ではないかと想起するに至った。本年度はまずマウス骨髄から造血幹細胞を採取してメチルセルロース培地に撒き、そこにTMを添加してコロニー形成能を観察した。その結果、コントロール溶媒を添加して培養されたマウス造血幹細胞と比較して、1TMの存在下で培養されたマウス造血幹細胞は有意に多くのコロニーを形成することが明らかとなった。また、マウス造血幹細胞にTM遺伝子をレンチウイルスを用いて感染させて強制発現させても、コントロール遺伝子を導入した造血幹細胞と比較してより多くのコロニーを形成することが明らかとなった。これらの結果から、TM分子には造血幹細胞を増殖させる活性が存在することが明らかになったと言える。血管内皮保護作用と同様に、これらの作用がGPR15を介したものなのか、GPR15ノックアウトマウスから造血幹細胞を採取して検証を行う予定である。
2: おおむね順調に進展している
マウス造血幹細胞に対してトロンボモジュリンは増殖刺激活性を発揮することを示せた。これはわれわれが予想していた通りの結果である。今後その作用機序を明らかにする研究を行う。
GPR15ノックアウトマウスの骨髄から造血幹細胞を採取して各種サイトカインを含むメチルセルロース培地に撒いて培養を行う。この培養系にTMあるいはコントロール溶媒を添加してコロニー形成能を比較検討する。我々は、GPR15が存在しないとTMは造血幹細胞のコロニー形成を刺激できないのではないかと予想する。また、以下の実験を行いTMが造血幹細胞の増殖を刺激する作用機序に迫る。マウス骨髄から造血幹細胞を採取してメチルセルロース培地で培養する。この培養系にTMあるいはコントロール溶媒を添加して18時間後に細胞からRNAを抽出して遺伝子発現解析を行い、TMが造血幹細胞内で発現制御する遺伝子群を明らかにする。さらに、以下の実験を行いTMが血管組織に及ぼす効果について検証する。各系統の造血細胞が幼弱な造血幹細胞から分化して作られるのと同様に、血管組織も血管内皮幹細胞から分化増殖して作られることが複数の研究グループにより明らかにされた。われわれはTMが血管内皮幹細胞に生存シグナルを伝達して血管新生作用を発揮し、障害された血管組織を修復するのではないかと考えてそれを検証する研究に着手する。われわれは既に、既報に従いマウスの肝臓を摘出し、細胞表面マーカーCD31とCD157に対する抗体で細胞染色を行い、フローサイトメトリーを用いて陽性細胞を分取した。血管内皮細胞のうち約3%の頻度でCD31と157が陽性に染まる、血管内皮幹細胞を含むとされる細胞分画の取得に成功した。これらの幹細胞を、各種サイトカインを分泌するマウス間質細胞OP-9と共培養することで生存維持できることも確認できた。今後、この培養系にTMを添加することで血管内皮幹細胞の増殖、分化を誘導可能か検証する。
当初本研究予算で購入予定であった研究試薬を別予算で購入したため余剰金が発生した。2021年度の研究試薬の購入に充てる。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 5件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件)
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