研究課題
高線量の放射線に被曝すると、骨髄での造血障害や腸粘膜傷害に起因する感染症や、様々な臓器が機能不全に陥ることで死に至る。日本の原子力発電への依存度は、東日本大震災とそれに続く第一原子力発電所事故が起きた2011年前の11.2%から、2019年には2.8%まで大きく減少したが、今後控えている廃炉作業などもあり、放射線事故による急性放射線障害から人命を救護するための方策の確立は僅々の課題と考える。トロンボモジュリン(TM)は主に血管内皮細胞上に発現して血液凝固を負に制御する膜タンパクである。TMの細胞外領域を遺伝子組換え技術で作製した遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM)が播種性血管内凝固の治療薬として臨床応用されている。我々は、全身放射線照射を前処置に用いた移植患者に、血管内皮細胞障害に起因して起きる肝類洞閉塞症候群などの致死的合併症の発症頻度が、rTMを使用することで軽減したことを報告した。このような臨床経験から、TM分子には放射線障害から臓器を保護する機能があるのではないかと想起するに至った。我々はC57bl/6マウスに致死量の放射線を照射し、そこに同系マウスの骨髄細胞を移植して造血不全をレスキューする実験系を組み立てた。このマウスモデルにrTMを投与すると造血不全からの回復が早くなることを既に報告している。今回、急性肺障害に対するrTMの効果の検証を試みた。放射線照射で肺障害を誘発する系を確立することが出来なかったため、ブレオマイシンを経気管的に投与して肺線維症を誘発するモデルを使用した。rTMを投与することで肺線維化を有意に抑制することができた。我々は以前、rTMは血管内皮細胞上のケモカイン受容体GPR15を介して血管内皮細胞保護作用を発揮することを報告した。rTMはGPR15欠損マウスにおいてはブレオマイシン誘発肺線維症を予防できなかったことから、肺上皮細胞のGPR15を介して効果を発揮していると考えられた。
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