本年度はSNCAに関して全1アミノ酸変異ライブラリによる凝集性変化を網羅的に評価した(DMS:Deep mutational scan)。前年度に行ったヒトSNPsに限定したミニライブラリの結果に関しては今回のDMSでも同様の結果が得られたため、DMSはライブラリサイズが100倍程度にスケールアップされているが正確に評価できていることが示唆された。DMSの結果は両親媒性N末端領域と酸性C末端領域のアミノ酸変異で凝集性が高まり、疎水性NAC領域のアミノ酸変異で凝集性が低下する傾向がみられた。ヒトではA53T変異が家族性パーキンソン病の原因変異として知られているが、生物進化的に霊長類以下ではT53を保有しており、霊長類は進化的にA53によりSNCAタンパク質の非凝集性を獲得したという見方ができる。しかし霊長類以下の生物にもクジラやゾウなど長寿の動物が存在するが、それらではA53の代わりにXとYのアミノ酸置換で非凝集性を獲得していることが推察された。実際、ヒトSNCAや凝集性の高いマウスSNCAにXやYのアミノ酸変異を導入すると凝集性がほぼ消失することが確認できた。このうちYに関してはヒトでもSNPが報告されているが、病的表現型は確認されておらず、安全性の高い非凝集性アミノ酸変異と考えられた。そのためYを疾患保護的変異候補としてノックインマウスを作製し、現在パーキンソン病モデルでの保護効果を確認する準備を行っている。
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