本研究では、一部の遺伝性皮膚疾患(ichthyosis with confettiやロリクリン角皮症、毛孔性紅色粃糠疹5型など)でみられるrevertant mosaicism(復帰変異モザイクともよばれる)という自然治癒現象の分子メカニズムを解析した。変異タンパク質が相同組換えを誘導するという仮説を証明するために、まず、変異タンパク質発現下でX線照射や抗がん剤(エトポシド)を投与し、DNA損傷を人為的に誘導したが、相同組換えは増加しなかった。同様に、変異タンパク質発現下でDNA損傷や複製ストレスが増えることもなかった。短時間の複製ストレス下では変異タンパク質は組換えを誘導しなかったが、長時間(36時間)複製ストレスをかけ、変異タンパク質を発現させると、break-induced replcationとよばれる組換えが優位に増加することを明らかにした。患者でみられる相同組換えは、変異よりセントロメア側から始まりテロメアまで続く大きな組換えであるが、これはまさにbreak-induced replcationでみられる組換えと同様のパターンであることから、変異タンパク質がbreak-induced replcationを長時間の複製ストレス下で誘導することが遺伝性皮膚疾患でみられるrevertant mosaicismの分子メカニズムであると結論づけた。本研究では、遺伝性疾患を相同組換え誘導により治療するという、従来の概念を大きく覆す新しい治療法の開発への基盤となる結果を見出すことができた。
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