研究課題
マウスの造血幹細胞移植モデル(B6ドナー、B6D2F1レシピエントのMHC不適合移植モデル)を用いた研究を引き続き実施した。移植後経時的に肝GVHDのマーカーである血清ビリルビン値を測定したところ、移植後28日目に上昇のピークを認めた。また、肝臓の移植片対宿主病(graft versus host disease:GVHD)を病理学的に検討した。同種造血幹細胞移植後14日目より門脈域への単核球浸潤を伴う胆管上皮細胞のアポトーシスといった典型的なGVHD病理像がみられ、28日目に最大変化がみられ、以後プラトーとなった。28日目の組織で、胆管上皮細胞障害のバイオマーカーであるmatrix metalloproteinase 7 (MMP7)とcCaspase 3の発現亢進がみられ、血清ビリルビンの上昇と一致していた。一方、同種移植後にみられた上記の様々な変化はコントロールである同系移植後にはみられず、GVHDに伴う変化であることが確認できた。次に肝臓から分離した胆管分画を培養し胆管上皮オーガノイド作製に成功した。同種移植後14日目、28日目の肝臓由来のオーガノイドは同系移植後と比較し、有意に減少していた。このことから胆管上皮幹細胞がGVHDの標的となることを世界で初めて証明できた。次いで胆管上皮幹細胞がGVHDにおいて障害されるメカニズムに迫るため、肝組織でのサイトカイン発現をPCR法で検討したところ、interferon (IFN)-gamma、tumor necrosis factor (TNF)、transforming growth factor (TGF)-beta mRNAの有意な発現亢進がみられ、胆管上皮幹細胞障害に関わっているものと考えられた。
1: 当初の計画以上に進展している
胆管上皮オーガノイド作製手技が確立できたことで、胆管幹細胞がGVHDの標的であることを世界で初めて証明できた点で、欧米の競合相手に先行することができ、極めて良好な進捗であったと言える。
肝組織で発現上昇がみられたIFN-gamma、TNF、TGF-betaを細胞別(ドナーT細胞、ドナー由来マクロファージ、クッパ―細胞など)に検討する。これにより発現細胞を同定する。一方、胆管上皮オーガノイド培養系に各サイトカインを添加し、オーガノイド形成を阻害するサイトカインを同定する。これが決定できたらその抗体や阻害薬を入手し、オーガノイド形成阻害が回避されるかを検討する。これらの研究によって肝GVHDの本質である胆管上皮障害の細胞、分子的メカニズムが解明され、新たな治療法の開発へつながることが期待される。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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