研究実績の概要 |
これまでの代謝研究では、皮膚は糖尿病合併症の標的臓器として捉えられるのみであり、代謝におけるその積極的な役割は殆ど研究されていなかった。そこで本研究ではまず皮膚の生理応答に着目し、皮膚からの熱放散が、体温調節、更に全身のエネルギー代謝に及ぼす影響、特に皮膚の熱放散機能への介入が全身の糖代謝に影響を与えるか否かを検証した。マウス皮膚に血管拡張薬であるイロプロストを塗布し、マウスの熱放散を促進するモデルを確立した。この処置はマウスの随時血糖を低下させ、これは肝臓におけるG6pc、Pck1, Ppargc1aなどの遺伝子発現変化を伴っていた。これらの遺伝子発現の変化は寒冷刺激時に見られるものと類似しており、皮膚の熱放散の変化が何らかのシグナルを介して肝臓の代謝を変化させたものと推測された。 並行して我々は、皮膚の代謝における病態生理学的位置付けを広く検証する目的で、痩せ型マウスおよび肥満モデルマウスの皮膚の単一細胞RNAシーケンシング解析を行った。皮膚の単一細胞RNAシーケンシング解析では、ケラチノサイトにおいて分化段階に合致する複数のクラスターを確認、また線維芽細胞においても特徴的な遺伝子発現パターンを呈する複数のクラスターを同定した。この他、免疫担当細胞、pericyte、骨格筋細胞などが良好に分離された。痩せ型マウス、肥満モデルマウスの各細胞腫における遺伝子発現を比較したところ、ケラチノサイトでの特定のケモカインの発現上昇と、線維芽細胞の複数のクラスターで炎症系サイトカインの上昇が認められた。またこれらの遺伝子発現の変化は皮膚内のT細胞の増加を伴っており、線維芽細胞における炎症の増加がケラチノサイトでのケモカイン上昇を引き起こし、T細胞の遊走を促している可能性が示唆され、肥満における各種炎症性皮膚疾患の増悪のメカニズムとして新たな研究の方向性を指し示すものと考えられた。
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