研究課題/領域番号 |
20K21622
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研究機関 | 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構 |
研究代表者 |
井上 大地 公益財団法人神戸医療産業都市推進機構, その他部局等, 研究員(副センター長・部長クラス) (80735746)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 骨髄異形成症候群 / クローン性造血 / エキソソーム / 間葉系幹細胞 / 骨芽細胞 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究で、MDSマウスモデルでは、間葉系幹細胞の骨芽細胞系列への分化が抑制され、骨形成の抑制・骨粗しょう症の進展が認められることを明らかとした。本年度施行した、単一細胞RNAシーケンスにおいてもMDSマウスの間葉系幹細胞ではRunx2やBglapといった骨芽細胞マーカーが低下し骨芽細胞の減少を認めた。実際に、我々の患者コホートでもMDS患者で骨量の減少を認めた。これらの結果を裏付けるように、正常造血幹細胞はMDSモデル由来の間葉系幹細胞との共培養下でコロニー形成能が著しく障害されたが、Bmp4を含む骨芽細胞への分化を促進する条件下で完全にレスキューされた。さらに、in vivoでも骨芽細胞への分化を促進するPTH(1-34)製剤の投与で正常造血の改善がみられた。異常な造血幹細胞由来のエキソソームが間葉系幹細胞に取り込まれており、in vitroにおいて骨芽細胞への分化抑制はこのエキソソームのみで十分であった。驚くべきことに、MDS由来のエキソソームのみでコロニー形成の低下、in vivoでも骨の菲薄化とそれに付随する造血能の低下が認められ我々の仮説が裏付けられた。ヒトMDSにおいても骨量の低下、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化障害、骨芽細胞への強制分化によるin vitroでの造血能の回復が認められた。さらに、エキソソーム内のmicro RNA (miRNA)の網羅的解析により、骨分化を抑制するmiRNA群を同定し、ヒト検体中のmiRNAマイクロアレイの結果と合わせて複数の鍵となるmiRNAに対して治療対象としての妥当性の評価を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は予想よりも早く論文掲載に至った (Hayashi et al. Cell Report 2022)。 クローン性造血が骨髄以外のあらゆる機能低下の原因となっていることを鑑みれば、本研究は造血幹細胞を出発点とするものの、その成果は骨粗鬆症による骨折の予防や、加齢に伴う貧血や免疫機能の改善、炎症を伴う脂質代謝を背景とする動脈硬化性病変(脳梗塞・心筋梗塞など)の予防といった健康寿命に直結するものばかりである。造血幹細胞を中心として多細胞間のクロストークが明らかとなれば理論的裏づけをもとに臨床応用可能であり、生活の質を大きく改善することが期待される。また、エキソソームが標的細胞に取り込まれる上で必須の表面タンパクや脱制御されているパスウェイを同定すること、標的へのドラッグデリバリーを開発することは新領域の医療シーズに直接つながるものと考えている。とりわけ、エキソソーム創薬の技術革新は、高齢者に共通してみられる各臓器の機能低下や造血器疾患に止まらず様々な生命現象の脱制御に応用できる普遍的なツールとなる可能性を含んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、長期にわたる障害を受けたMDS幹細胞由来のエキソソームを鍵として、代表的なニッチ細胞である間葉系幹細胞を介した新しい造血抑制メカニズムを解き明かすことに成功した。これらの知見からMDSの病態において、変異を有する造血幹細胞そのものを駆逐することはできなくても、間葉系幹細胞の骨芽細胞への分化抑制を解除することができれば、残存する非クローン性造血幹細胞由来の造血機能を回復させることができると期待され、高齢者の造血・骨ネットークを対象とした治療応用の基盤となるデータの蓄積が待たれる。エキソソームの標的細胞への取り込み機構を詳細に解析し、間葉系幹細胞以外の血管内皮細胞などへの役割も検討する。メカニズムに基づいた新規治療の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度分を140 万円翌年度に繰越を行っている。その理由としては、骨髄の単一細胞レベルでの空間トランスクリプトームに必須の10xGenomicsのライブラリキットの販売が延期になり、そのデータの取得に向けた実験をおこなうことができなかったからである。これらのデータは環境が整い次第、順次取得していく予定である。
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