研究課題
移植医療の深刻な課題として生涯に渡る免疫抑制剤の服用があげられる。長期に及ぶ免疫抑制剤の服用は患者に様々な副作用をもたらすが、それだけでなくカルシニューリン阻害剤をベースとする現行の世界標準である免疫抑制剤は移植グラフトにも糖尿病や血管障害など多くの悪影響を及ぼすことが明らかとなっている。こうした背景により、カルシニューリン阻害剤に依存しない新規免疫抑制剤の開発が求められている。申請者らはカルシニューリン阻害剤と異なる作用機序を有するKRP-203に着目し、この新規物質が"糖尿病を引き起こさない"、"血管障害を生じない"、"カルシニューリン阻害剤と同等以上に拒絶反応を制御できる"ことを本研究にて実証し、体やグラフトに優しい免疫抑制剤として確立することを目指す。さらに本研究は冬虫夏草由来のKRP-203が元来強力な抗炎症作用も保持している事を鑑み、"拒絶反応が起こらない同種同系モデルにおいてもKRP-203によりグラフト生着を促進する"という大胆な仮説を検証する事により、移植医療における免疫抑制剤の立ち位置を拒絶反応を抑えるため止むを得ない服用という従来の常識から、移植効果を上げるため率先して服用という新たな価値観へ転換するという意義も有している。本年度はまずKRP-203の耐糖能障害に関する検証を目的とし、KRP-203を2週間服用させた後、マウス個体の耐糖能を経静脈的糖負荷試験にて計測すると共に、服用させたマウスから摘出した膵臓から膵島分離を実施し、その分離膵島に関してもin vitro糖負荷試験、呼吸活性計測、インスリン/DNA計測、ADP/ATP ratioにて評価を実施した。その結果、薬剤の作用機序から予想した通り、KRP-203は耐糖能障害を引き起こさず、これまでのカルシニューリン阻害剤と異なり薬剤性糖尿病の原因とはならない有用な免疫抑制剤であることが判明した。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、当初の研究計画通りKRP-203の耐糖能障害に関する検証を実施し、期待通りKRP-203が糖尿病を引き起こさない免疫抑制剤であることを実証することができた。耐糖能障害の検証が順調に進み予定よりも早く終了したため、本年度後半はKRP-203の血管新生阻害作用を検証するために必須となる、二光子顕微鏡とdorsal skinfold chamberを組み合わせた高感度イメージングシステムの構築準備にも着手し、年度内に無事有用なモデルを完成することができた。そのため、本年度の研究計画は当初以上に極めて進展していると判断した。
本年度の研究を推進する事により、KRP-203が糖尿病を引き起こさない免疫抑制剤であることが判明したため、2021年度は引き続き本年度中に構築したin vivo高感度イメージングシステムを用いて、KRP-203の血管新生阻害作用を検証していく予定である。
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