研究課題/領域番号 |
20K21627
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 真二 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30253420)
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研究分担者 |
秋山 好光 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (80262187)
島田 周 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (20609705)
新部 彩乃 (樺嶋) 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (20445448)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / CAR-T / 免疫チェックポイント / 免疫疲弊 / 難治性がん / 同系統移植モデル / 免疫抑制因子 / RNA編集 |
研究実績の概要 |
ゲノム編集技術の治療開発への応用が期待されている。申請者は挑戦的研究(萌芽)H30-31によりゲノム編集システムを搭載した高効率レンチウイルスベクターを開発し、多重ゲノム編集により同時に複数の遺伝子改変を導入する革新的手法に成功した。本研究では、高効率多重ゲノム編集技術をCAR-T細胞開発へ応用し、新規がん免疫治療に展開することを目的とする。CAR-T治療では、免疫抑制シグナルによる免疫疲弊・失活が課題である。抑制シグナルには様々な免疫チェックポイント因子や、疲弊誘導因子が報告され、効率的な多重遺伝子ノックアウトによる阻害解析が必須である。血球系は一般に遺伝子導入率が低いが、我々が開発したシステムは高効率にT細胞に導入される特徴を認め、多重ゲノム編集CAR-T細胞作成に適する。本課題は、CAR-T細胞の免疫疲弊機序の解明のみならず、難治性がん治療開発に直結した実践的研究である。
当研究室にてCD3ζ, CD28, 4-1BBドメインを結合した第3世代CARベクターを構築し、mesothelin scFv, CD19 scFvを各々搭載した特異的CARを作成した。C57BL/6由来のmesothelin導入マウス膵癌細胞株、CD19導入マウスCdh1:Trp53変異スキルス胃癌細胞株を多重ゲノム編集にて作成し、各細胞株に対してmesothelin-CAR, CD19-CAR導入マウスT細胞(CAR-T)が特異的に活性化することを確認した。NSGマウスを用いた移植腫瘍モデルにより、CAR-T のin vivo腫瘍抑制効果を検出したが、C57BL/6マウスを用いた同系統移植腫瘍モデルでは、CAR-T の腫瘍抑制効果が減弱することを見出した。この減弱メカニズムに複数の免疫抑制因子が関与する可能性を新たに認めており、多重ゲノム・RNA編集技術によりCAR-T細胞賦活作用を解析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題ではCAR-T細胞賦活化を誘導するため、多重ゲノム編集技術に加えて、多重RNA編集技術の開発も進めている。CRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats) associated proteins (Cas)には様々な種類(2クラス、6タイプ、19亜型以上)があるが、相補的RNAをガイドとして標的DNAを切断するCas9はタイプII酵素に分類される。Cas13はDNAではなくRNAを切断するタイプⅥ酵素であり、宿主ゲノムを損傷しないRNA編集だけではなく、その高い特異性により多重ウイルス感染の迅速診断などにも応用されている(Ackerman et al. Nature 2020)。当研究室にてCas13d/Rxを搭載したレンチウイルスベクターを作成し、cis-RNA切断活性による特異的ノックダウン活性を解析した結果、siRNAおよびshRNA導入と比較して数十倍高い効率性が検出された。Cas13d/Rxは930アミノ酸と比較的小さく、1368アミノ酸で構成されるspCas9と比較的して、多くの相補的RNAを搭載できる点も優位であり、現在 多重RNA編集システムの構築を進めている。さらに、PD-1およびCTLA-4のinhibitory domain (ITIM/ITSM, YVKM/YFIP)を用いたinhibitory CARベクターを作成し、オフターゲットの回避システム構築を展開しており、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の研究計画では、正常免疫モデルを用いた解析により、複数の免疫抑制因子を標的としたCAR-T細胞賦活作用を検証する方針である。本研究で開発した多重ゲノム編集システム(CRISPR/Cas9)はT細胞において高いノックアウト効率を認めており、持続的効果があるCAR-T治療の開発が期待される。さらに臨床応用を推進するため、宿主細胞のゲノムを損傷しない多重RNA編集システム(CRISPR/Cas13d)の開発を進めている。多重ゲノム編集システムの成果に基づいて、多重RNA編集システムによる複数の免疫抑制因子のノックダウン効率およびCAR-T細胞賦活作用を解析し、より効果的かつ安全性が高いCAR-T治療を開発する方針である。さらにinhibitory CARベクターによるオフターゲット回避効果を検証し、難治性がん特異的CAR-T療法の開発を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
複数の免疫抑制因子を標的とした多重ゲノム編集システム(CRISPR/Cas9)に加えて、宿主細胞のゲノムを損傷しない多重RNA編集システム(CRISPR/Cas13d)を新たに開発しており、当初の計画以上に進展している。次年度使用額を用いて、この2つのシステムに基づいた前臨床試験を行うことを計画している。多重ゲノム編集システムと多重RNA編集システムの比較によって、より効果的かつ安全性が高いCAR-T治療を開発し、臨床応用へと展開する方針である。
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