研究課題
人工物を留置する手術では、術後感染が発症すると難治化しやすく、基本的にはその人工物を除去しなければ治癒しない。心臓血管外科領域では、人工心臓や人工弁、人工血管など人工臓器を用いた手術が多く、感染に対するマネージメントは重要な課題である。中でも大動脈手術後の人工血管感染は生命予後に直接影響し、最も管理に難渋する疾患群である。感染の治療において、リファンピシン浸漬人工血管によるin-situ再建がしばしば用いられるが、抗生物質のリファンピシンは表皮ブドウ球菌に対しては有効だが、黄色ブドウ球菌やメシチリン耐性黄色ブドウ球菌、緑膿菌に対しての効果は懐疑的である。また、その効果は2週間程度で、再発・再燃のリスクが示唆される。従って、安定した抗菌作用を持った人工血管の開発が望まれている。研究代表者らは、殺菌性と化学的安定性を有するPoly[2-(methacryloyloxy) ethyl] trimethylammo-nium chloride; Poly(METAC) を用い、poly(METAC)を含有する種々の共重合体を合成し、それらの物理化学的な性質を評価した。共重合体は、METACユニット、カルボキシ基、ベンゾオキサボロール基を含有する。カルボキシ基およびベンゾオキサボロール基は、ポリビニルアルコール(PVA)との架橋構造を構築するために導入した。PVA-poly(METAC)は、熱架橋することで繊維化することに成功した。繊維の粒径は20-25μm程度で、含水性を示した。熱力学特性は、糸に含まれる高分子の結晶性や水素結合性に起因した組成変化に伴う性質差が見られた。また、ウサギ赤血球を用いた溶血試験では、溶血率は低く、繊維への吸着は見られなかった。