研究課題/領域番号 |
20K21637
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
山高 篤行 順天堂大学, 医学部, 教授 (40200703)
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研究分担者 |
松本 有加 順天堂大学, 医学部, 助教 (50813672)
中村 哲也 順天堂大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (70265809)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 膀胱上皮 / 神経因性膀胱 / 膀胱拡大術 / 腸上皮置換 / オルガノイド / 悪性腫瘍 |
研究実績の概要 |
二分脊椎患者では、神経因性膀胱による尿失禁や膀胱尿管逆流による反復性尿路感染などの重篤な下部尿路機能障害に対し、膀胱コンプライアンスや容量不足の向上のため腸管利用による膀胱拡大術を要することがある。しかし、腸管利用膀胱拡大術後では腸粘膜分泌機能に関連する尿路結石の発症や、両組織上皮からの腫瘍発生などのリスクがあり、これに代わる画期的治療開発が望まれる。近年、種々の上皮組織を3次元的に体外培養するオルガノイド技術が進歩し再生医療への応用が期待されている。本研究は、小児外科領域において下部尿路機能障害の臨床および基礎研究に従事してきた研究代表者が、結腸への種々のオルガノイド移植実験を進めてきた分担者と連携し、ⅰ)正常膀胱オルガノイド培養技術を確立し、ⅱ)結腸上皮を膀胱上皮に置換したハイブリッド結腸を作成することを目的としている。さらに、ⅲ)膀胱上皮化ハイブリッド結腸を利用した膀胱拡大術の実施可能性を動物モデルで検証する。本研究は膀胱上皮の異所性移植による生体への影響を明確にするとともに、膀胱拡大術後神経因性膀胱に対する画期的な再生医療技術開発につながるものと期待される。将来的に、この動物モデルにより炎症関連因子の発現変動や遺伝子変異発生などの、合併症発生機構を分子学的に解明することで、腸管利用膀胱拡大術後の合併症予防に必要な新補助薬開発への発想も見出せる可能性がある。さらに本研究成果は、消化管組織に生着した膀胱上皮幹細胞が生来と異なる微小環境においてどのように恒常性を維持するかを解析する、他に類を見ない膀胱上皮幹細胞研究モデルを提供するものと予想される。かつ、腸管間質組織と膀胱上皮の異種組織結合構造を描出することで、細胞同士運命決定機構を検討するのに極めて重要なモデルと成り得る点においても独創的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)正常マウス膀胱オルガノイド培養技術確立とその性状解析 既報に沿って、膀胱組織を細分化したのちにコラゲナーゼ溶液で膀胱組織破片を攪拌し上皮を単離して、FGF7, FGF10, A83-01を添加した培地およびマトリゲルを用いた培養法を確立した。膀胱上皮単離を行う際、コラゲナーゼの濃度・振盪時間・振盪速度を変更して効率の良い上皮収集条件を検討した。既報ではこの培養法による膀胱オルガノイドの特性として、基底膜側の基底細胞で高発現する遺伝子が、培養前の単離した膀胱上皮や膀胱組織由来のものより顕著に高く発現維持されるとし、我々が導入し培養したオルガノイド細胞群においても同様であることをqPCRで確認した。 2)マウス移植モデルによる膀胱上皮化ハイブリッド結腸作成の実行 まず、移植する膀胱オルガノイド培養細胞の準備として、EGFP-tagマウス膀胱から上皮を単離し培養を開始した。被移植体の腸管剥離技術導入のため、全身麻酔・開腹手術による以下の手技を用いた。すなわち、盲腸に近接する近位側結腸約1.5cm幅の領域をクランプしてEDTAを還流させ、緩衝液の注入により上皮を剥離して被移植体モデルを作成した。生体の生存性を維持しつつ、効率よく上皮剥離し得るEDTA濃度・暴露時間など詳細に検討した。さらに、上皮剥離した結腸領域にGFP膀胱オルガノイド細胞を注入し、ここへ移植生着させる条件の検討を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、上記実験系において移植する膀胱オルガノイドが再現性をもって生着し、長期に維持できることを観察する予定である。さらに、可能な限り効率的な移植方法を模索していく。また、移植片内の膀胱上皮由来細胞の性状を、GFP陽性細胞における各種分子発現で評価する。また、生着したGFP陽性細胞及びレシピエント由来の結腸粘膜どちらにおいても、異形成や過形成などの細胞形態変化が、移植後長期に渡ってみられないかを詳細に検討する。 続いて、マウスにおける結腸利用の膀胱拡大術モデルを作成する。全身麻酔・開腹術の下、膀胱頂部に小切開を加え、膀胱オルガノイド移植領域を想定した1-1.5cm幅の近位結腸部位を遊離し抗菌薬を混ぜた生理食塩水で洗浄した後に、遊離結腸と膀胱頂部切開部を吻合するものである。長期生存性が得られること、経尿道的にカテーテル留置し生理食塩水を注入して膀胱容量拡大が得られているかを確認していく。ここに、あらかじめ膀胱オルガノイド移植を加える事で、拡大術後に膀胱内結石・上皮異形成や悪性腫瘍発生などの長期合併症が軽減されるか否か、生物学的影響について評価したい。特に、腫瘍化の有無などが統計学的に検討困難な程に低頻度であれば、nitrosamineによる膀胱管腔内暴露の前処理によって、発がん性を高めて腫瘍発生率の差異を観察することも検討する。さらに、組織学的変化以外にも腎機能や電解質異常、酸塩基平衡の変動など、腸管粘膜暴露による膀胱拡大術後の生化学的合併症がこの移植モデルによって軽減されるかも幅広く検討する。 また、最終年度となる本研究ではこれら成果の公表も広くおこないたい。技術が確立できれば、膀胱コンプライアンス向上のため膀胱拡大術を要する神経因性膀胱患者らに対する新規治療の基盤技術となり、社会に及ぼす影響も大きいことが予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染が蔓延したこととそれに伴う緊急事態宣言の発令により、実験動物の購入・実験に必要な製品の購入が一部困難となった。また、動物舎の利用制限により、動物実験の実施自体が減少した結果、予算の使用が少なくなった。 現在は、実験再開が可能な状況となり、要製品の発注は継続できている。新規物品についても納品待ちであることから、昨年度遅延した分の実験を早急に実施するように努め、次年度に予算を使用する予定である。
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