研究課題
申請者等は,正常では細胞膜でシグナルを発信するKITが,KIT変異を持つがん細胞では,低ユビキチン化状態でエンドソームやゴルジ体に停留し,恒常的に活性化し増殖シグナルを発信し,肺癌のEGFRの変異体はエンドソームで活性化している事を明らかにした。しかし,これら変異体が本来集積される場所以外に集積し分解されにくい分子機構や,がん細胞内でどの様な分解経路で代謝されるか不明である。本研究では,超解像三次元イメージングと生化学的解析を組み合わせ,その分解経路と機構を明らかにし,変異タンパク分解誘導による新規治療開発戦術の基盤を造る。申請者等は,消化管間質腫瘍(GIST)のKIT変異体が,分子シャペロンHSP90に対する阻害剤 (17AAG/TAS116等) やHSP90とは別分子を標的とする化合物Aが,GISTのKITを分解に導くことを見出している。そこで①GISTのゴルジ体を中心とした変異KITの分解機構の解明,②ライブイメージングを用いた分解コンパートメントの可視化と同定,③変異シグナル分子の分解誘導剤の開発とその戦略上での新規がん治療薬の開発基盤造りを計画した。本年度は,主に ①に取り組み,二種類の独立した分解経路を見出した。GIST細胞株に化合物Aを処理した際に認められるKITレベルの低下は,リソソーム機能を阻害する塩化アンモニウム,クロロキン,バフィロマイシンA1で抑制された。一方,HSP90阻害剤処理では,KITのリソソームへの移行は観察されず,また分解は上記リソソーム阻害剤で抑制されなかった。GISTのゴルジ体における変異KITの代謝分解経路と機構は,少なくとも異なるメカニズムが働く二経路が存在することが示唆された。今後,後者の分解機構について,オートファゴソームおよびプロテアソームの関与を明らかにする。
2: おおむね順調に進展している
本年度は,主にGISTのゴルジ体に異常停留する活性化変異KITの分解機構の解明に取り組み,二種類の独立した分解経路と分解機構を見出した。①.患者樹立細胞株GIST-T1に化合物Aを処理するとKITの蛋白質レベルは低下するが,このKIT分解はリソソーム機能を阻害する塩化アンモニウム,クロロキン,又はバフィロマイシンA1処理で抑制された。この際,免疫染色によるKIT局在検討でも,変異KITがリソソーム内腔へ移行することが認められた。同様の結果を他のGIST細胞株でも得た。則ち,化合物AによるKITの分解には,リソソームが関与することが示唆された。②.HSP90阻害剤処理では変異KITはリソソームへ移行しない。HSP90阻害剤で誘導される分解は上記リソソーム阻害剤で全く抑制されない。則ち,GISTの変異或いは正常KITの分解経路は,少なくとも二経路あり,異なるメカニズムで分解されていることが示唆される。今後,後者②の分解経路に関し,オートファゴソームおよびプロテアソームの関与を明らかにする。
GIST細胞の変異KITのゴルジ体からリソソームへの移行の過程や,HSP90阻害剤処理時のKITの移行過程やコンパートメントを,三次元超解像イメージングを用いて詳細な解析を試みる。想定されるターゲット分子をsiRNA/shRNAによりノックダウンし,確認データを得る。また,化合物処理時に誘導される翻訳後修飾 (主にユビキチン化) や限定分解についても検討する。さらに,GIST以外の変異チロシンキナーゼを有するがん (肺腺がん, 急性骨髄性白血病, 多発性骨髄腫等) における特定の活性化変異チロシンキナーゼの分解経路と分子機構の解析をおこなう予定である。
研究自体は概ね順調に進んでいるが,COVID-19の流行に伴い2020年度の学会がWEB開催になったことにより学会参加の交通費・宿泊費が不要になったこと,研究打ち合わせもWEBで行ったため交通費が不要になったこと,並びに,論文費用(英語添削代を含め)を見込んでいたが,論文作成が年度を超えたためこの費用の使用が年度内に執行されず年度を超え2021年度に繰り越されたためによる。
すべて 2020
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