エネルギー代謝は生命に必須であるが、代表的代謝の解糖系と関連する代謝シグナルは核酸や脂肪の生合成にかかわり癌細胞は優先的に利用して自己を複製する。我々は核蛋白HMGN1が解糖系などエネルギー代謝にかかわることを明らかにした。HMGN1が核に局在する網膜色素上皮は、関連する代謝を利用できるので特定の刺激で増殖して眼内増殖疾患の主要細胞になれると考えた。しかし、マウスの場合、通常飼育では視細胞杆体細胞はHMGN1が核エンベロップのLaminB1とほぼ同じ位置に存在した。杆体細胞のクロマチンインバージョンを考えてもHMGN1の核蛋白質との接触は他の細胞と異なり、杆体細胞はエネルギー代謝が異なる可能性を考えた。そしてこれが視細胞のエネルギー代謝を特殊なものにして、再生できないことに関連すると推測した。そこで、視細胞のHMGN1局在や発現を変更させ、必要時にHMGN1本来の機能を復活させ視細胞増殖、すなわち再生の引き金になる可能性を探ることを計画した。まずHMGN1のより詳細な機能解析のためCRSPR-Cas9法でHMGN1を欠損させた細胞で解析したが、この細胞はグルタミントランスポーターの発現を変化させ、癌細胞などで報告されている増殖に関わるトランスポーターの発現を抑制することが判明した。しかし、グルタミンの利用がなくなるわけではなく、細胞増殖などの代謝に関わる割合が減り、神経細胞の伝達物質や細胞内pHの制御に働く可能性が考えられた。これに代わり、TCA回路は脂質代謝のベータ酸化を利用する可能性が推測された。そして、Hmgn1欠損マウスの眼の解析では形態的な変化はほとんど見られないが、網膜機能の低下が確認され、HMGN1は代謝を介して細胞機能に重要な役割をになうことが推測された。
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