研究課題
本研究では、ヒト膀胱がん細胞株を用いて膀胱がんにおけるELOVL6発現誘導機序およびELOVL6が制御する脂質多様性が膀胱がんの代謝やシグナル伝達におよぼす影響を明らかにし、膀胱がんの新規治療戦略の開発につなげることを目的とした。ヒト筋層非浸潤膀胱癌細胞株RT112を用いて、膀胱癌におけるELOVL6発現制御機構を解析した。また、RT112およびヒト筋層浸潤性膀胱癌細胞株J82、253J、T24においてELOVL6をノックダウンし、細胞増殖への影響とその分子メカニズムを解析した。膀胱癌手術検体において、非癌部に比べて癌部ではELOVL6の発現が5.8倍増加した。筋層非浸潤膀胱癌では変異や融合によるFGFR3の恒常的活性化が知られているが、RT112においてFGFR3をノックダウンすると、転写因子SREBP-1の活性化の抑制(核型SREBP-1の減少)とELOVL6発現の減少が認められた。ELOVL6のノックダウンは、FGFR3遺伝子変異を有さないT24および253Jでは細胞増殖に影響を及ぼさなかったが、活性化FGFR3遺伝子変異を有するRT112およびJ82では細胞増殖を抑制した。Xenograftモデルによる造腫瘍能の検討では、in vivoにおいてもELOVL6ノックダウンによるRT112の腫瘍形成の抑制が認められた。さらに、ELOVL6をノックダウンした RT112細胞のRNA-seq解析から、ELOVL6の阻害はmatrisomeと呼ばれる細胞外微小環境に関わる遺伝子の発現を変化させることが明らかとなった。本研究により、膀胱癌ではELOVL6の発現が亢進し、特に活性化FGFR3遺伝子変異を有する膀胱癌において細胞増殖能や腫瘍形成能に重要な役割を果たすこと、その分子機序として細胞外微小環境の変化が関与している可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
各種ヒト膀胱癌細胞株におけるELOVL6阻害の影響をin vitroおよびin vivoで明らかにし、トランスクリプトーム解析からELOVL6の阻害が細胞外微笑環境に影響を及ぼすことを明らかにしたため。
リピドミクス解析を行い、膀胱癌の増殖や悪性進展を促進する脂質分子種を特定するとともに、その作用機序を解明する。
新型コロナウイルス感染拡大の影響により研究時間の制限や実験に必要な消耗品の確保に問題が生じた。RNA-seqおよびリピドミクス解析のための消耗品に次年度使用額を使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
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