研究課題
痛みの原因となる損傷や疾患が治った後も長期に渡って継続する慢性疼痛には、急性痛と同様の治療薬を使用しても効果は乏しく、オピオイドがある程度の効果を示す。我々はこの様な慢性疼痛のメカニズムの一つを解析するために、条件付けによる疼痛誘発の行動実験系を確立した。古典的条件付けが痛みの知覚に影響を与えることは何十年も前から知られている。ただし、条件付けによって修飾される痛みの正確なメカニズムは、それに最適の行動実験系を確立する必要がある。本研究で確立した条件付けマウスには痛み刺激を加えなくても痛み様行動を誘発することができた。この侵害受容反応はフェンタニルによって減少したが、イブプロフェン、プレガバリンまたはフルボキサミンによっては減少しなかったことから、慢性疼痛に効果のある鎮痛薬の薬理学的な特徴に酷似していた。この条件付け疼痛に神経系のどの部位が関与しているかを検討するため、神経活動のマーカーであるc-fos発現を各部位で検討した。その結果、条件付けで誘発される痛みは、末梢神経や脊髄後角は関与せず、むしろ大脳辺縁系と繋がりの深い脳内の数箇所の部位が関与していることを見出した。また、各種化合物を検討した結果、この条件付けによる疼痛に対してオピオイドと同等の抑制効果を示す化合物を見出した。さらにその化合物は、条件付けの痛みによって上昇する脳内のc-fos発現も抑制した。これらの結果から、我々が確立した条件付けによる疼痛誘発モデルは、発症に脳が関与する慢性疼痛の一つのモデルとなりうると考えられた。この慢性疼痛モデルに効果を示す化合物をリード化合物とし、創薬に向けた研究に発展させたい。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件)
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