研究実績の概要 |
哺乳動物の精子を体外で作成する手法は現在マウスでの器官培養によってのみ報告されている。今後、他の動物でも生体を用いず精子形成を達成できれば、男性不妊治療法開発などの有用なツールとなる。本研究では体外精子形成を体外で再現することを目的に、生体内に近い環境を有する精細管の体外構築を目指した。未成熟ウシ精巣組織を用いて様々な生理的条件下で器官培養・細胞培養を実施し、精原細胞の挙動や増殖能、生存能を検討した。 1. 生理環境条件の検討:8週間の長期器官培養により、血清または Knockout Serum Replacement (KSR), ゴナドトロピン、テストステロン、甲状腺ホルモン、レチノイン酸の添加が精細管内における精原細胞に与える影響を検討した。10%KSRでは、精原細胞が精細管基底膜部分から離脱し数が減少することが確認された。各種ホルモンの有無は精原細胞の挙動や増殖能に影響を与えなかった。レチノイン酸は精原細胞の増殖能を刺激する可能性が認められた。しかし、いずれの方法でも8週間内に精子形成には至らなかった。 2. 管状構造の3次元構築に必要なバイオインクの検討:3次元バイオプリンターを利用し、細胞の接着性を維持しかつ微細構造を再できるバイオマテリアルを検討した。波長405 nmの光硬化式バイオプリンターを用い、ポリエチレングリコールジアクリレート (PEGDA) およびゼラチンメタクリロイル (GelMA) を混合してブロックを作製し、精細管間質細胞を上に播種、細胞の接着性・生存性を検討した。GelMA/PEGDA比1%では細胞が接着・伸展しなかったが、想定通りの構造が作製できた。一方GelMA/PEGDA比を上げる (~50%) と、細胞の接着性は向上したが構造体の形状維持が困難であった。 今後、生理的および物理的環境再現のためさらなる検討が必要である。
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