マウス精巣組織培養法を用いた体外精子形成誘導の効率は非常に低く、精子産生数は生体内の10分の1程度に過ぎない。我々は逆転写酵素阻害剤が新生仔マウス精巣のin vitro精子形成効率が向上させることを見出した。逆転写酵素阻害剤はレトロ転移を抑制するという作用機序から、in vitro精子形成を阻害する原因はレトロトランスポゾンの過剰発現にあると仮説を立ている。このレトロトランスポゾンの過剰発現の原因を明らかにすることで、in vitro精子形成の効率改善につなげることが目的である。 今回の研究で、逆転写酵素阻害剤がE12.5胎仔精巣の組織培養において、特に高い効果を発揮することを見出した。この時期の胎仔精巣は、精巣へ分化が完了した直後であり、精細管構造もほとんど形成されていない未熟な組織である。従来の培養液ではE12.5胎仔精巣から精子形成を誘導することは不可能であった。逆転写酵素阻害剤を添加した培地で、E12.5胎仔精巣を組織培養することで、半数体である円形生細胞や伸長精子細胞まで分化誘導させることに初めて成功した。さらに、これらの精子細胞が正常な細胞かどうか確認するため、顕微授精実験を行った結果、健康な産仔を得ることに成功した。これらの結果は、胎仔精巣における体外精子形成が正常に進行したことを証明している。本研究において開発した胎仔精巣の培養は、胎仔期の精巣発生モデルとして、 発生学的な観点から新たな情報を提供できることが期待される。一方で、当初の目的の一つであるレトロトランスポゾンの過剰発現の原因については、解明に至らず課題が残った。
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