研究課題/領域番号 |
20K21663
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研究機関 | 東京歯科大学 |
研究代表者 |
山口 剛史 東京歯科大学, 歯学部, 准教授 (20383771)
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研究分担者 |
比嘉 一成 東京歯科大学, 歯学部, 講師 (60398782)
杉本 昌弘 東京医科大学, 医学部, 教授 (30458963)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2024-03-31
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キーワード | 水疱性角膜症 / ニコチナミドモノヌクレオチド / 前房水 / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
虹彩萎縮に伴う前房水の病的変化は急速な角膜内皮細胞の障害につながる。このような背景を持つ患者に角膜移植をしても、角膜内皮機能不全になり、何度も角膜移植を要する必要があることが多い。この機序を多層オミクス解析から得られた候補薬剤Nicotinamide Mononucleotide(NMN)の効果の有無を、動物モデルとIn vitroで行った。動物モデルとして我々が提唱しているDBA2Jでは、加齢に伴う虹彩萎縮と前房水の病的変化から角膜内皮細胞の障害されるが、50週から4週間NMNを投与したところ、角膜内皮細胞密度の減少は有意に低減された。電子顕微鏡で観察すると、NMN4週間投与でミトコンドリアの空胞変性が改善していた。TUNEL染色では陰性であり、今後この詳細な解明が必要である。また、ヒト実験用角膜をサイトカイン濃度の高い前房水・正常眼の前房水に24時間暴露し、サイトカイン濃度の高い前房水にNMN添加すると、NMN添加はサイトカインによるヒト角膜内皮細胞の障害が有意に低減した。同実験で、24時間暴露のヒト実験用角膜内皮細胞をRNAseq解析をして、今、どのような遺伝子がサイトカイン濃度の高い前房水で変化し、さらにNMN添加によって変わっているかを解析中である。 以上より、虹彩萎縮に伴う前房水の病的変化は急速な角膜内皮細胞の障害はNMNによって低減できることがわかった。今後は、NMN点眼の眼内移行性、NMN点眼治療の有効性を調べると同時に、虹彩萎縮に伴う前房水の病的変化は急速な角膜内皮細胞の障害を「前房関連角膜内皮症」として世界にむけて疾患概念の提唱を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多層オミクス解析から得られた候補薬剤の有効性をIn vitroおよびIn vivoで複数回の実験で確認できた。一方、in vitroのヒト角膜内皮細胞のRNA sequenceのデータ解析を行っており、GO解析、Pathway解析などNMNの角膜内皮保護効果作用機序の確認を今後行っていく予定である。一方で、非常に興味深いことに、ヒト角膜内皮細胞を用いた、PCRによる遺伝子発現の解析では、同様の刺激試験に対する特定遺伝子の発現変化に個体差が見られた。これは我々が想定した以上の影響であったが、この原因として、年齢や基礎疾患(糖尿病など)によるストレス応答の個体差が考えられた。これを科学的に特徴付けし、どのような患者でどのような環境に適応や耐性があるかを見ていくためによりカスタマイズした実験を今後行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
日本社会の超高齢化に伴い、緑内障手術の増加から難治性の水疱性角膜症の患者数が急速に増加している。緑内障術後の水疱性角膜症は虹彩萎縮や前房環境の変化を伴うことが多く、何度角膜移植をしても、長期生存が難しいことから失明に至ることが少なくない。このような虹彩萎縮に伴う前房水の病的変化は急速な角膜内皮細胞の障害を引き起こすが、本研究からは難治性水疱性角膜症における角膜内皮細胞の障害はNMNによって低減できることがわかった。今後は、NMN点眼の眼内移行性、NMN点眼治療の有効性を調べると同時に、虹彩萎縮に伴う前房水の病的変化は急速な角膜内皮細胞の障害を「前房関連角膜内皮症」として世界にむけて疾患概念の提唱を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
臨床での仕事が多く、十分に実験する時間がとれなかった。今年度はより実験の時間を確保して、環境への角膜内皮細胞の耐性と適応の個体差について、科学的な解析を追加していきたい。
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