研究課題
本年度は2種類の実験を行った。実験1では、昨年度に引き続き、A3Vを正常な神経回路に適用し、これがシナプスに限局して感染が広がっていく経シナプスベクターであるか、また逆行性性質を持たない順行性ベクターの性質を持つか、について検証を行った(伊藤)。昨年の結果に追加して組織構築の乱れやミクログリアの増殖を指標として、A3Vに毒性が殆ど見られないことが再確認された。この内容と昨年度までの内容を加えて論文を投稿し、受理・出版に至った。次に、この経シナプスベクターを用いて神経回路の解析が実際に可能であるか検討を行った。聴覚伝導路の下丘から聴覚視床への投射は哺乳類ではほぼ片側性であるのに対し、ニワトリでは両側性の投射であることが知られていたが、実際に投射の強さの左右差については不明であった。このベクターを下丘に注入し、視床の標識細胞の左右比を求めることでこの投射の強さを定量することに成功した。さらに、異なる蛍光タンパクを搭載した2種類のA3Vを左右の下丘に注入することで、視床で左右の下丘からの情報を統合するニューロンが存在することにも成功した。これらの結果をまとめて論文を執筆しているところである。また、昨年度に引き続き、A3Vキャプシドのコンストラクトの詳細を他のAAVと比較検討を行った(研究分担者・日置)。実験2は薬剤存在下で神経活動を強力に抑制する遺伝子工学ツールhM4Diを神経路特異的に導入し、遺伝子治療を試みるものである。本年度は昨年度に引き続き、内耳異常の行動実験による解析のための環境構築を行い、加えてベクターの構築について検討を進めた(研究分担者・西村)。
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