研究課題
2019年末からの新型コロナウイルス(SRAS-CoV-2)パンデミックで,飛沫感染する病原体による肺炎で治療薬(病原体の除去薬)がないことの懸念が周知された.ウイルスと同様に病原体の除去が困難な感染症課題として,米国で「薬剤耐性MRSA等の対策」,日本で「薬剤耐性アクションプラン」,そしてサミットと国連総会で「MRSA等の耐性菌対策」が提示され続けている.背景にあるのは,耐性菌の増加に伴い,治療困難となった感染者の死亡数が増加している現状である.一方で,国内外の医歯薬学領域では,腫瘍や再生等の分野に研究資源が集中し,耐性菌に対する新薬開発が停滞している.2019年10月時点で,本申請者が国内外の新規抗菌薬開発の特許出願ならびに論文検索を実施したところ,同開発は17のグループで進められていることが明らかとなった.しかし,それらは全てβラクタマーゼを阻害する着想であり,MRSAの耐性進化を予見すると心許ない.そこで本研究では,CRISPR-Cas発現のプラスミドDNAを素材とすることで ① 副反応の可能性が低く,② 耐性進化に合わせ ガイドRNA配列を変更するだけで薬剤標的を変更できる簡便さに富み,③ 安価で安定な,MRSA用の新抗菌薬の開発に挑戦することとし,研究を推進している.さらに,以前に基盤B海外で採択され研究した疫学データを活用し,将来の発生が懸念される新たな耐性機構を持つMRSAまでをin vitro およびin silicoで推測し,それらに対するCRISPR-Cas型の新規抗菌薬を予測開発するAIアルゴリズムを確立することも目標とし研究を進めている.その結果として,申請2ヵ年計画の半年間で,本課題のキーとなる各種ツールを準備した.
2: おおむね順調に進展している
本研究は,2ヵ年で計画する.研究初年度は,高齢者の肺炎/誤嚥性肺炎の主たる起因菌であるMRSAを対象菌に選び,かつMRSAの主要なペニシリン耐性因子PBP2’に標的を絞る.PBP2’に相補なガイドRNA配列を含むCRISPR-Casプラスミドを作製し,in vitroとin vivoの両実験系で効果測定と副反応の検証を実施し,CRISPR-Cas型抗菌薬の構築サイクルを確立させることとしていた.現在までに,以下のステップを実施し,かつ中間報告の一部を英語論文にて発表も行っている.そのため,おおむね順調な進展と自己評価した.次に,具体的な実施ステップを記す.1. 耐性因子PBP2’のDNA配列から,Cas酵素が結合できるPAM配列(5’-NGG)を全て選出し,その上流から約20塩基の配列をそれぞれガイドRNA候補とする.その後,ゲノム編集の成功率を高めるため,フリーウエアの“CRISPRdirect”および“CHOPCHOP”にて,最終的な塩基長を二重検証し確定する.次いで,3’末端側にPAM配列(-NGG)を付加したうえで,人工合成する“PAM+ガイドRNA配列”を決定する.2. 合成したPAM+ガイドRNA配列が,MRSA内で標的のみを切断するかを in vitroの確認キット(Guide-it Complete sgRNA Kit,TaKaRa社)にてスクリーニングする.3. CRISPR/Cas9 Knockout Plasmid(サンタクルズ社)等の専用プラスミドをメーカー別に複数購入し,上記手順にてin vitro検証したPAM+ガイドRNA配列を網羅的に組み込む.そして,PAM+ガイドRNA配列をCasタンパク質と共に同時発現するプラスミドを構築する.これらを“CRISPR-Cas型抗菌薬”候補とした.
初年度の“CRISPR-Cas型抗菌薬”候補をMRSA感染マウスに投与し,生存率を観察する.併せてマウス血液を採取し,血中の残存MRSA数をコロニー培養法で計測する.同時に,抗DNA抗体価はELISA解析し,サイトカインの増減はLuminex装置で多検体同時解析する.マウス血液中の投与DNA残留については,プラスミド中のM13シークエンスタグを利用してPCR検出する.次に,MRSA生育に必須なGAPDH等に結合するDNA配列を選出する.その際には,ヒトおよび常在細菌の同名タンパク質へ副反応を起こさないよう,生物種別のタンパク立体構造解析を行う.そして,MRSAに特異的なドメインの配列を選出する.初年度の手技に従い,CRISPR-Cas型抗菌薬の効果判定を行い,データをPCに蓄積する.In vitroのMIC試験を繰り返し,やがて耐性が生じるCRISPR-Cas型抗菌薬のガイドRNA配列を検索する.次いで,ビッグデータセンターのGeForce並列計算システムで,薬剤耐性因子の進化パターンをディープラーニングさせる.MRSAの耐性変遷は,申請者である寺尾が2017年度までに遂行した基盤Bデータから転送し,新規耐性菌の出現時期の予測を試みる.そして,予測される耐性菌にも奏効するCRISPR-Cas型抗菌薬をビッグデータ解析から推測する.また,2年目のバックアッププランとしては,以下を準備している.すなわち,標的の耐性タンパク質の立体構造をPDBjソフトにて予測し,ガイドRNA配列とのPCドッキングシミュレーションから,特異的な結合予測をマニュアル作業で実施する.なお,これら一連の手技に関しては,文部科学省事業「科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業」のフェローシップ大学院生にも教示しながら推進する.
新型コロナウイルスの世界的大流行により,一部消耗品(物品費)の流通に影響が生じたことは周知の事実である.その物流停滞の影響を受け,2387円分の支出が年度内には完遂できなかった.
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