歯を含む上皮間葉相互作用により発生する臓器は,特定部位の上皮組織が肥厚し,間葉組織に陥入することで生じる.そして,上皮細胞が様々なサイトカインを分泌し,間葉細胞の遺伝子発現を制御することで発生が開始する.これまで,多くの研究者は,歯胚発生の運命決定メカニズムを明らかにするため,発生過程 の組織から経時的にRNAを抽出し,網羅的解析を行ってきた.しかし,発生過程において,歯胚を構成するすべての細胞が同じ挙動を示すわけではなく,細胞同 士が上皮間葉相互作用を含む様々なコミュニケーションを取りながらダイナミックに変化するため,これまでの細胞集団の平均値的解析では,発生メカニズムを 詳細に捉えることは困難であった.そこで,本研究では,Single Cell RNA-SeqやSlide-Seqなどの最新の科学技術を応用し,誰も成し遂げることができなかった歯胚発生の運命決定メカニズムを明らかにすることを目的に以下の実験を実施してきた.歯胚発生初期のマウス歯胚および非歯原性口腔粘膜組織を単離し, scRNA-Seqにて1細胞解析を行った,次に,位置情報を有したSlide-Seqにて解析し,間葉細胞と相互作用を起こしている上皮細胞群が特異的に発現している転写 因子を抽出し, scRNA-Seqの結果と照らし合わせて関連因子の絞り込みを行い,候補遺伝子が抽出した.そして,候補遺伝子の欠損マウスを入手し,歯のフェノタイプをmicro-CTにて詳細に解析したが,歯に大きなフェノタイプは認められなかった.そこで,今年度はscRNA-seq解析を進め,更にいくつかの候補遺伝子の抽出に成功した.今後,これらの候補遺伝子に関する機能解析を実施し,歯の発生に関わる遺伝子を同定する予定である.
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