研究課題/領域番号 |
20K21684
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
内藤 真理子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 教授 (20244072)
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研究分担者 |
鵜飼 孝 長崎大学, 病院(歯学系), 教授 (20295091)
佐藤 啓子 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (70410579)
近藤 好夫 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(歯学系), 助教 (30581954)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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キーワード | 歯周病 / 病原性 / 9型分泌装機構 / 細菌叢 |
研究実績の概要 |
歯周病原菌のPorphyromonas gingivalis(P. gingivalis)は、特定の分泌装置(Type IX Secretion System: T9SS)を持ち、この分泌装置が病原性発現に関与していると考えられている。また、T9SSは歯周病細菌の Tannerella forsythia, Prevotella intermedia 等にも保存され、病原性発現に関与していると考えられている。これらの菌種の9型分泌装置からは数十種類のタンパク質が分泌されており、P. gingivalis では、この分泌装置によって、組織障害性プロテアーゼ、関節リュウマチに関わるとされるシトルリン化酵素、赤血球凝集因子など、少なくとも30弱程のタンパク質が分泌される。病原性に関わるT9SS機能解明と、機能抑制による歯周細菌叢の制御を目的とする。 上記歯周病細菌と同じく、バクテロイデーテス門に属する口腔滑走細菌においては、T9SSが滑走運動に関わる。この滑走運動をおこなうモデル滑走細菌では、栄養飢餓培地上に同心円状に拡がった薄いフィルム状のコロニーを形成する。拡張したコロニー内部を観察すると、ベジクルやファイバー様構造物で満たされた細胞間マトリックスのなかに菌体が点在しており、バイオフィルム形態となっていた。さらに、拡張するコロニー辺縁では、多くのベジクルを菌体表層に形成しているのが観察された。一方、コロニー拡張を示さない変異株では、菌体が密集しており細胞間マトリックスがほとんど見られないことから、T9SSによる滑走運動はバイオフィルム拡張に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「T9SSの病原性につながる機能解析」 T9SSは細菌のタンパク質分泌と滑走運動に関わる。滑走運動についての解析を行った。モデル滑走細菌Flavobacterium johnsoniaeは、少なくとも2つのコロニー拡張様式をもつことがわかった。1つは集団運動によるコロニー拡張で、これには菌体表層接着分子が関わる。コロニー先端では多くのベジクルを菌体表層につけ、菌同士が前後左右に接着した状態で集団運動をしながらコロニーを拡張させていく。一方、グルコース含有軟寒天培地では、個々の運動によるコロニー拡張が観察される。両条件ともに、コロニー内部ではベジクルやファイバー様構造物で満たされた細胞間マトリックスのなかに菌体が点在しており、バイオフィルム形態となっている。コロニー拡張を示さない変異株では、菌体が密集しており細胞間マトリックスがほとんど見られないことから、滑走運動はバイオフィルム拡張に関わることが示唆された。 「冷水病天然アユからの冷水病菌の分離とゲノム解析、ゲノム比較、多様性解析」 歯周病細菌と同じくバクテロイデーテス門の魚病細菌の多様性を把握するために、多くの河川および水産試験場で発生した魚病から魚病細菌を集めている。2019年、魚病の病巣部位から改変サイトファーが培地で培養できる102菌株を分離した。16S rRNA解析から、13菌種に集約され、この13菌株についてゲノム解読をおこなった。2020年に分離した魚病細菌は、2019年に分離した菌株の16S rRNAと100%一致した。
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今後の研究の推進方策 |
「「冷水病天然アユからの冷水病菌の分離とゲノム解析、ゲノム比較、多様性解析」 歯周病細菌と同じくバクテロイデーテス門の魚病細菌の多様性を把握するために、多くの河川および水産試験場で発生した魚病からの魚病細菌のゲノム比較を行う。2020年発生した魚病の病巣部位から菌株を分離、16S rRNA解析により系統を推測する。2019年に解析した株と異なる、新たな系統株が認められた場合は全ゲノム解析を行う。 「魚病細菌におけるT9SS変異株の作製」 Flavobacterium 属のATCC株についてT9SS変異株の作成を試みたが、成功しなかった。本研究で集めたFlavobacterium sp. 菌株において、遺伝子操作可能な菌株が複数含まれていた。これらの菌株を用いて、T9SS変異株の作製を試みる。魚病細菌の変異株が得られた場合、分離株の表現系の解析(プロテアーゼ分泌(コラーゲン分解)、赤血球凝集)、分泌タンパク質の解析、滑走運動解析をおこない、病原性を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
多くの河川および水産試験場で発生した魚病から分離した魚病細菌102菌株の解析として、16S rRNAによる菌種推定、系統樹解析までを期間中に終えることができたが、そのあとに予定していた全ゲノム解析(13株)の一部を期間中に終了することができなかった。その為当初予定した使用額が少なくなり、次年度使用額を生じた。 次年度に繰り越した経費は、未解析の菌株(6株)の全ゲノム配列解析費用に充てる予定。
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