研究実績の概要 |
腫瘍の低侵襲な診断法として,採血によるリキッドバイオプシーが注目されている.解析対象にはDNA, RNA,細胞外小胞などがあるが,中でも血中循環腫瘍細胞(CTC)の解析は,遺伝子変異や細胞株のみでは判断できない個別の腫瘍に対する治療薬の選定に有用であることから重要である.しかしながら,その頻度は血液10ml中に数個程度とされ,簡便で効率的な抽出は困難であった.本研究では決定論的横置換法(DLD)を応用したマイクロ流体デバイスを作製した。期間中に3種類のデバイスを試作し、シリンジポンプによって細胞懸濁液とシース液としてPBSを用いて,想定された細胞サイズの抽出を試みた。マイクロデバイスでは単離細胞や細胞片にあたる小顆粒と細胞集塊とを区別することが可能であり、DLLを用いたマイクロデバイスによる腫瘍細胞抽出の有用性が示された。一方、課題として、細胞分離速度は十分とはいえず、今後さらにデバイスの改良が望まれる点であった。抽出された細胞塊については、培養後に自発的スフェロイド形成を行い、得られた細胞の幹細胞性について検討した。自発的スフェロイド形成細胞は、OCT4, Nanog, KLF4, Sca-1陽性であり、RNAシークエンスの結果から、高い増殖性と移動能、浸潤性、血管新生促進能を有することが示唆された。本研究から、DLLデバイスと自発的スフェロイド培養法との組み合わせることで、CTCの効率的な抽出と腫瘍幹細胞評価の可能性が示された。
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