研究課題/領域番号 |
20K21693
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
舟山 眞人 東北大学, 医学系研究科, 教授 (40190128)
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研究分担者 |
橋谷田 真樹 関西医科大学, 医学部, 准教授 (40374938)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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キーワード | 向精神薬 / 突然死 / 法医解剖 / エクソーム解析 / DNAメチル化 / 死後CT画像 |
研究実績の概要 |
研究代表者の所属する東北大法医学分野では年間250~300体の法医解剖を施行している。法医解剖の目的には大きく2つあり、一つは犯罪性の有無に関し、医学の目からのアプローチ、もう一つが死因究明である。後者に関連し2012年に「死因究明等の推進に関する法律」、2019年6月に「死因究明等推進基本法」が公布された。これら法律は、高齢化ならびに孤独死の増加と共に、死因究明を行うことによって得られた知識が公衆衛生の向上及び増進に資する情報として広く活用されることを目的にしたものである。例えば予期せぬ死という状況で発見されたヒトに対して、犯罪性が低くとも、捜査機関や行政が大学法医学教室との連携のもと、積極的に解剖を施行するよう努力しなさい、というものである。このような動きの中で、従来ほとんど解剖に付されなかった、犯罪とは関係の低い死亡例が、積極的に解剖されるようになった。 そのような解剖症例の中で目に付くのが精神疾患患者の突然死である。長期に亘り向精神薬を投与されていた患者が自宅や入院先で予期せぬ死を迎え、しかし解剖で心筋梗塞のような死因となる明らかな異変がみられない症例(以下突然死群と称する)があることは、一部の法医医師や精神科医の中で知られてはいた。関連薬剤としてフェノチアジン系薬の関与が言われているが、そのメカニズムは不明のままであり、実際にはこれ以外の薬剤でも突然死が発生している。そこで本研究では、このような突然死群に対し、まず症例の抽出を行い、状況を把握する。その後、これら突然死群に対し、最新の診断技術である遺伝子のエクソノーム解析、DNAメチル化の検索、ならびに死後CT画像のAI(人工知能)解析を用いることで、精神科領域での剖検死因不明な突然死の原因究明を多角的に試みようというものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
倫理委員会での研究承認後、死亡事例の把握が研究のスタートとなる。よって、実際の研究期間は2カ月程度であったが、今後の解析に向け、症例抽出が終了した。なお、以下に具体的成果を述べる。 2007年以降、当分野での解剖例中、統合失調症あるいはうつ病の既往があるもので、向精神薬の投与情報が得られ、かつ精密機器分析が行われた成人症例の中から、可能性を含めた死因を挙げ得なかったものを抽出した。なお、冠状動脈硬化症など器質的疾患の罹患率が高い60代以上は除いた。 その結果、統合失調症11例、うつ病5例で、うちテンカンが2例、アルコール依存が2例重なりがある。男性が13例と多く、20代2名、30代5名、40代6名、50代3名であった。得られた情報からの病歴期間は統合失調症が3年以上、うつ病が1.5年以上である。両疾患とも向精神薬は3種類以上の処方記録があるが、精密機器分析では多くの症例で、処方薬全てが検出されてはいない一方、処方リストにはない薬剤が検出された例もみられた。薬剤の種類が多く、傾向を把握するには症例数が少ないものの、バルブロ酸ナトリウムが9例と目立っていた。最近の研究では抗テンカン薬とブルガダ型心電図波形との関連を示唆する報告があり、興味深い。また2種類以上のベンゾジアゼパム系薬剤併用例は10例にみられた。
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今後の研究の推進方策 |
過去研究での遺伝子検索は心臓疾患に関与する糖・脂質代謝に関連する調査が大半であり、「原因不明な突然死」といういわば“表現形”に関連したアプローチは殆どない。そこで2021年度では突然死群から得たゲノム試料を心疾患に関連したエクソーム解析により、突然死に関連する遺伝子多型(SNPs)を探索する。 心疾患に関連するDNAメチル化情報は現在でも極めて乏しく、ターゲットとなるメチル化部位は特定されていない。そこで、上記の解析と平行して、全エクソームレベルでの網羅的なメチル化解析を行い、突然死群と対照群とで比較する。解析には次世代シークエンサーを用いる。これによりメチル化部位での状態が、単にメチル化されているか否かの判断ではなく、0-100%の間の割合、すなわち「メチル化率」として表現することができる。
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