最終年度は次世代シークエンサーを用いたミトコンドリアDNA(mtDNA)解析を行った.mtは細胞内小器官であり,mtDNAに変異が存在すると重篤な臨床症状を呈することがある.後天性の場合,加齢と共に変異を持つmtDNAの数が増加し,ある閾値を超えると臨床症状が出ると考えられ,特に心臓でこれが起きると突然死に至ることもあり得る.そこで今回,向精神薬長期服用者の突然死例においても同様な事例が見られるか,mtDNA変異の検索を行った.18例の突然死例の心筋および血液からDNAを抽出し,Precision ID mtDNA Whole Genome Panelを用いてmtDNA全領域の増幅を行い,Ion Chef Systemで前処理後,次世代シークエンサーであるIon Gene Studio S5 Systemでデータを取得した.得られたシークエンスデータは,ConvergeソフトウェアでmtDNA参照配列(rCRS)との変異解析を行った. それぞれの心筋と血液のmtDNA配列を比較したところ,18例中14例において変異が見られ,4例は血液と心筋のmtDNA配列は同一であった.更に心筋にのみ見られた変異の中で,3例においてはSNPデータベースから病原性があると判断された.2例は30代男性における8473C,及び40代男性の10398Rの変異であり,死因は虚血性心疾患および心肥大であった.残りの1例は60代女性の9484.1Tであり,死因自体は薬物中毒であった.先の2例はmtDNAの変異と死因の関連性が疑われるところであるが,病歴などの情報も加味して判断する必要がある.向精神薬の長期服用と死因の関連に関しては,服用していた薬物の種類,薬物代謝系遺伝子変異,心筋のmtDNA変異等の多方面からのアプローチを行うことで,突然死の死因究明の道筋に新たな指針を提示することができると思われる.
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