毛根以外の毛幹部のケラチンをトリプシン消化して得たペプチドの質量分析で検出した多型により、毛髪の異同を解析できることが確認された。日本人1家族(両親とその子1名)、その家族と非血縁者2名の毛髪1㎝(毛幹部)をトリプシン消化して得たケラチン由来のペプチドから、液体クロマトグラフィ質量分析により、17種ある毛髪ケラチンの類似配列を考慮しつつ8種のケラチンから40種程度のアミノ酸変異候補を検出した。検証のためケラチン各部位のDNA塩基配列を解析した。ケラチンK33Bの多型A215PヘテロがDNA解析でも検出された。この多型は、質量分析では、家族(両親、子供1名)では全員ヘテロで検出されたが、非血縁者2名ではAのみであった。公開データベースEnsemblによれば、このAlleleは、中国タイ族,華北人,ベトナム人が2%,華南人が3%,日本人(106人)では16%に上る。他方アフリカ、非フィン人系ヨーロッパ、中南米(インディオ)、ユダヤ系には存在しない。この多型は欧米の先行研究でも報告されていない。Ensemblにデータを公開していない韓国については不明である。他に質量分析で検出された5多型部位を含む4ペプチドに対応するDNAで、日本人106人データを分類すると、標準配列どおり(46%)を含め13グループとなった。ゲノムDNAや血液型を利用できない状況の代替法として、個人識別は無理にしても毛髪の異同を識別するのに有用性があると言える。DNAケラチンのアミノ酸配列は、血漿たんぱく質や精漿たんぱく質と相同性がなく、これらがコンタミしても質量分析できる。他の多型候補は、DNA変異に基づかず、アーチファクト生成(カルバミル化によるアミノ基修飾、閉環反応、脱アミド反応)と考えられた。アーチファクトの生成を抑制する検討実験は、質量分析計トラブルでできなかった。
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