研究課題/領域番号 |
20K21721
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
高橋 忠伸 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (20405145)
|
研究分担者 |
池田 潔 広島国際大学, 薬学部, 教授 (40168125)
|
研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
キーワード | ノイラミニダーゼ / シアリダーゼ / 酵素 / インフルエンザウイルス / 蛍光検出 |
研究実績の概要 |
2013年以降、中国でH7N9型鳥インフルエンザウイルスの人への感染例が多く報告されている。人へ伝播した鳥インフルエンザウイルスが人から人へ感染拡大し、新型インフルエンザとして世界規模の大流行(パンデミック)を起こす恐れがある。人に感染したH7N9型鳥インフルエンザウイルスの表面に存在する二つの主要糖タンパク質はヘマグルチニンとノイラミニダーゼ(NA)である。その二つの主要タンパク質の中で、NAの性状についてはよく分かっていない。NAは、ウイルス受容体のシアル酸を基質として糖鎖末端から切断するシアリダーゼ活性を示す。本研究は、N9型NAのシアリダーゼ活性の性状が人ウイルスに近いのか、鳥ウイルスと同様なのかを調査する。人ウイルスに近い酵素性状を見つけることで、人への伝播機構の一端の解明をめざす。また、その性状は人への伝播リスクの指標にも利用できることが期待される。 NAの酵素性状の一つに、糖鎖末端シアル酸の主要分子種N-acetylneuraminic acid(Neu5Ac)およびN-glycolylneuraminic acid(Neu5Gc)に対する基質特異性がある。Neu5Acに対するシアリダーゼ活性は、市販の蛍光基質4-methylumbelliferyl Neu5Ac(4MU-Neu5Ac)を用いて測定した。一方、代表者は、分担者が合成した4MU-Neu5Gcを用いてNeu5Gcに対する基質特異性を測定してきた(Biol. Pharm. Bull. 39, 1728-1733, 2016)。NA遺伝子を発現させた293T細胞に、4MU-Neu5Acあるいは4MU-Neu5Gcを添加して水溶性蛍光物質4MUの蛍光強度を測定することで、各シアル酸分子種に対するシアリダーゼ活性を測定した。N9型NAのこの基質特異性は通常の鳥ウイルスに類似していた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
N9型NAのシアリダーゼ活性の酵素性状の一つとして、シアル酸分子種に対する基質特異性が測定できた。さらに、人ウイルスや通常の鳥ウイルスの基質特異性も測定して比較した。分担者からも蛍光基質を合成、供給していただき、酵素性状の一つを解析できた。
|
今後の研究の推進方策 |
N9型NAのシアル酸分子種Neu5AcとNeu5Gcに対する基質特異性について、通常の鳥ウイルスと大きな違いが見られなかった。そのため他の酵素性状について、人ウイルス、通常の鳥ウイルスと比較していく。今後解析していく酵素性状の候補として、糖鎖末端のシアル酸とその直下のガラクトースとの結合様式(α2,3あるいはα2,6)に対する基質特異性や、代表者がパンデミックインフルエンザウイルスに見られる酵素性状として報告してきた酸性安定性がある。シアル酸とガラクトースの結合様式に対する基質特異性を測定するため、分担者に蛍光基質を合成していただく。酸性安定性は市販の4MU-Neu5Acで測定する。 N9型NAで人ウイルスに類似した酵素性状が見られたら、その性状を決めるアミノ酸置換を同定する。最小単位のアミノ酸置換で、通常の鳥ウイルスN9型NAの酵素性状を変化させたウイルスで人細胞への感染性、増殖性を比較する。人細胞に適応したNAの酵素性状を求めることで、鳥ウイルスの人への伝播機構の一端を解明する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究分担者の所属機関の経理上の問題(発注時期の関係)で一部の試薬の支払い処理が当該年度末に差し戻されたため、差額が生じた。この差額は、次年度以降の研究分担者の物品費に使用する。
|
備考 |
高橋忠伸:静岡県立大学SDGsイニシアティヴオンライン連続講義企画<コロナ後のSDGs的世界> 「コロナウイルスの理解と新型コロナウイルスの治療薬、取るべき対策について」 webエッセイ・講義動画
|