研究課題
前立腺癌での前立腺特異抗原(PSA)のように、簡便で有用なマーカーが存在する一方、多くの癌腫では今なお早期発見や再発の早期検知に有効な診断法が存在せず、その技術開発が強く求められている。本研究では、自覚症状に乏しく、また実臨床において有益な腫瘍マーカーが無い早期診断が困難な淡明細胞型腎細胞癌(以下「腎癌」)と浸潤性膵管腺癌(以下「膵癌」)を取り上げ、その二次予防に向けた診断技術の開発を目的とする。我々は、これらの癌患者の手術検体組織と末梢血検体を用いて、包括的高感度転写産物プロファイリング(High Coverage Expression Profiling: HiCEP)法と次世代シークエンサー(Next Generation Sequencer: NGS)を組み合わせた新規高感度解析法を行うことにより、腎癌や膵癌に特異的な分子探索を行った。HiCEP法は日本で発明された網羅的な遺伝子発現解析手法であり、高感度かつ網羅的、定量的な発現解析を行うことができ実験の再現性が高いといった特徴がある。目的とするピークの塩基配列決定が煩雑だという欠点はあるが、我々はNGSを用いて癌発現データベースを作成することで、その欠点を克服した方法がNGS-HiCEP法である。腎癌及び膵癌の腫瘍組織を用いてNGS-HiCEP法を実施したところ、腫瘍特異的なマーカー候補をそれぞれ12個及び26個を同定した。そのうち4個及び12個は新規であった。これらの候補については、腎癌34例、膵管癌28例でreal-time qPCRを用いた再現解析を行い、高い再現性を確認した(学会発表予定)。以上の成果より、NGS-HiCEP法は、異なる癌腫においても新規腫瘍マーカー候補を効率よく網羅的に検出できることが示唆された。今後。これらの詳細な検討を行い、論文として報告する予定である。
2: おおむね順調に進展している
【研究実績の概要】に記載したように、臨床症例を用いた解析及びその再現解析は順調に進んでおり、遺伝子発現データベースが得られている。今後、これらの結果と病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データとの関連を解析・検討することにより、腎癌・膵癌の非侵襲的早期診断や再発の早期検知を目指す。
今年度は、【研究実績の概要】で得られた結果と病期診断や病理診断、治療効果等の臨床データとの関連を解析・検討することにより、腎癌・膵癌の非侵襲的早期診断や再発の早期検知が可能となるようなマーカーを探索する。合わせて、これらの知見をゲノムコホート研究と共有することにより、治療効果の予測や二次予防に向けた臨床応用に繋がる技術開発の基盤となる成果に結びつけることを目標とする。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う混乱により、年度末前後の研究計画の一部を変更したために次年度使用額が生じた。前倒しで進捗している研究もあるため、本課題の研究推進には問題はない状況である。
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